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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
なのに、 “それ” は突然訪れた。
否――もしかしたら、今迄は水面下でなされており、それが表面化しただけなのかも知れない。
そうなるキッカケはきっと、シャネルの衣装提供を受けるという、目立つ事をしたから。
今期のプログラムを公表したその日から始まった、双子を遠巻きに見つめての生徒達のひそひそ話。
それも翌日には落ち着いたのだが、今度は特定の2年生女子による陰口が始まった。
当初、「クリスも同じ事されてる?」と大層心配したヴィヴィだったが、双子の兄はいつも通り飄々としており。
そしてその陰口は、必ずヴィヴィが独りでいる時を見計らって浴びせ掛けられたものだったので、「クリスは何とも無い」という事はすぐに把握出来た。
朝練を終えてシャワーを浴びたヴィヴィは、私服に着替えてクリスと待ち合わせをしているフロントロビーへと急ぐ。
本当は登校したくないけれど、でも周りに心配を掛けるのはもっと嫌で。
「お待たせ、クリス」
にっこりと微笑んだヴィヴィは、クリスと連れ立って黒塗りのベンツに乗り込み、いつも通り東大駒場キャンパスへと向かった。
いつも人通りの少ない炊事門という、キャンパスの南東側に位置する校門前まで送って貰っているのだが、 ベンツを降りた所で、くだんの2年女子の内の1人と鉢合わせした。
(ああ……、1~2年だけでも6600名も在籍してるのに、何で会っちゃうんだろう……)
教職員数等を合わせたら7000名程がこのキャンパスに集っているだろうに、自分の運の悪さをヴィヴィは呪った。
東大は講義室の移動が多い。
タイミング悪く生協の購買部へ行く用事が出来、ひとりになってしまった途端、ヴィヴィの鼓膜を厳しい声音が震わせた。
「まったくさぁ……、毎日ベンツで送り迎えって、何様のつもり?」
背後から聞こえてきたのは、きっと今朝会った女子。
「あ、今日もぉ~?」
気怠そうに答える少し甘ったるい声音は、もう嫌でもヴィヴィは覚えてしまっていた。