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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章               

「うん。あ~あ、今朝もあのCM、観ちゃったよ~~……」

「あ、あれ? 超ぶってるやつぅ?」

 ケタケタと嘲笑を含んだその声に、ヴィヴィの肩がびくりと震える。

「そうそう! 『ありがとう、マム。いつも感謝してます!』ってさ。あの子の母親、絶対に家事なんかしてないでしょ?」

 まるでその場から逃げる様に足早に購買部へ向かうヴィヴィは、腕から下げていたバックをギュッと胸の中に抱いた。

 彼女達が言うCMとは、双子のスポンサーのひとつ――生活用品メーカーのP&Jのもの。

 衣料用・家事用洗剤、シャンプー等を主力製品とするそのメーカーのCM撮影で、担当者から今回のCMコンセプトを聞いた時、双子は心の中で眉を潜めた。

『日頃、家事や育児と陰で支えてくれるお母さんに、感謝の気持ちを表すものに仕上げたい。 “ママの公式サポーター” と名打っている我が社のイメージを、視聴者に直接的に伝えたいんだ』

 正直、フィギュアのコーチとして多忙のジュリアンは、家事なんか一切していない。

 それに家令・執事・メイドがいるのだ――する訳が無い。

 双子は正直に我が家の現状を伝えたのだが、スポンサーも広告会社も「それでもいいから」と了承したので、結局そのコンセプトのまま、与えられたセリフでCMを撮り終えた。

「………………」

(別に……、ヴィヴィは、いいと思うもん。女性だからって絶対に家事・育児しなくても、仕事ややるべき事があるんだから、誰かの助けを借りれば……)

 多忙の両親に代わって、使用人や匠海に育てられたと言っても過言でない双子は、それでも両親の事が大好きで、どちらも第一線で活躍している2人を心から尊敬していた。

 母親を侮辱された気がしたヴィヴィだったが、でもそれはすぐに間違いだと気付く。

 あの言い方は、嘘を吐いたヴィヴィを責めるものだった。

 要するに、ヴィヴィのする事なす事が、とにかく気に入らないのだろう。

「はぁ……、車通学……、どうしよう……」

 ベンツでとやかく言われるなら、他の安めの車に変えればいいのか?

 けれど篠宮邸にあるのは、双子用のベンツ・家族用のリムジン・両親各々の車(全てが高級スポーツカー)・匠海のBMW。

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