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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章
「ほら。ヴィヴィにあげるよ。だから機嫌直して?」
そう言って覗き込んできた匠海の表情は困ったように微笑んだそれ。
「……もう……ヴィヴィのこと……怒らない……?」
小さな唇を尖らせてそう呟くヴィヴィに、匠海は破顔する。
「もともと怒ってないよ。それより、言ってくれないの――?」
「…………?」
ヴィヴィは匠海の言葉が意味するところが分からず、その腕の中で愛らしく首を傾げる。
「ヴィヴィから『おめでとう』って聞いてない」
「…………っ!!」
目の前の貴公子はそう言って拗ねたようにヴィヴィを見下ろしてくる。その甘えたような表情にヴィヴィは驚いたが、自分にしか見せないであろうその顔に、ヴィヴィの小さな虚栄心は大いに満たされた。
「Congratulations!! おめでとう、お兄ちゃん! And だ~いすきっ!!」
そう言ってやっと笑ったヴィヴィは、匠海の首にしがみついてその頬にキスをしたのだった。
「………………」
(今から考えれば、ほんと酷く我が儘な子だったな――私)
昔を思い出し柵に両手を突いて項垂れたヴィヴィだったが、隣にいた高原が「お?」と声を上げたのを聞き、顔を上げる。
「うわぁ……」
視線の先――それほど高くはない障害を、匠海を乗せた東桑がひらりと飛び越えた。約五百キロの大きな馬体が跳躍する姿にヴィヴィは圧倒された。
「すっご~いっ!!」
「四年もブランクがあるとは思えないな……」
ヴィヴィの感嘆の声と高原の驚きの声とが重なる。その後何度か障害を飛んだ匠海はヴィヴィ達の元へと戻ってきた。
「お兄ちゃん、すご~いっ!」
柵から身を乗り出してそう叫ぶヴィヴィに、匠海は馬から降りるとなぜか肩を竦めた。
「最後、ポール落としたけどな……」
最後に飛んだ障害のポールに、東桑の後ろ足がかかってしまって落としたことを匠海は悔しそうに語る。
「いや……そんなに簡単に全て飛ばれたら、いっつも練習してる俺らの立場ないから!」
高原の突っ込みに匠海は東桑の腹を撫でながら苦笑いする。
ヴィヴィはそこでふと思い出して口を開いた。
「そう言えば……お兄ちゃんが高校生の頃、たまにヴィヴィやクリスを二人乗りしてくれたよね」