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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章
匠海の前に乗せてもらっていた小さなヴィヴィは、後ろから伸ばされた兄の腕が自分の前で手綱を操っているのを見るのが好きだった。たまに後ろの匠海の胸に甘えて凭れ掛かって「ちゃんと座らないと落ちるよ?」と注意されたりしていたっけ。
「ああ。ヴィヴィ達はまだ小学生で軽かったからね」
そう言って匠海はヴィヴィのおでこにポスッと掌を乗せる。
「むう……確かに高校生になってから、体重増えたよ……」
兄妹のやりとりに隣にいた高原がくっくっくっと笑う。その様子に匠海が何かを悟って、
「もう一周してくる」
とまた東桑に乗り行ってしまった。その後ろ姿を見ながら高原が口を開く。
「匠海はほんと、妹が可愛くてしょうがないのな」
「え…………?」
(私が可愛くて、しょうがない……?)
不思議に思ったヴィヴィが口を開こうとした時――、
「ラッキー! 篠宮君、来てるじゃない!」
後ろから女性の大きな声が響いた。ヴィヴィはぱっと振り返るが、こちらへと歩み寄ってくる女子生徒に見覚えはない。
「あれ、藤峰女史。今日は三限までじゃなかった?」
隣の高原が不思議そう藤峰という女子生徒にそう尋ねる。
「それが三限休講になったのよね~」
女性にしては長身な藤峰はバッグを握った腕を肩にかけ、まるで風をその肩で切るようにこちらへ向かって歩いてきたが、ヴィヴィの前でぴたりとその歩を止めた。
「――って……なに、このお伽噺の絵本から抜け出てきたような美少女……やい、高原! あんた遂に犯罪に手を染めたのね――!?」
物凄い剣幕でヴィヴィの隣の高原に詰め寄る藤峰。
「ぬ、濡れ衣だ……匠海の妹のヴィクトリアちゃんだよ」
悔しそうにそう釈明する高原に、藤峰は両の掌をポンと叩く。
「あっ……! どっかで見たことがあると思ったら、テレビに出てた! えっと確か、フィギュアの子だよね?」
「あ……はい」
まったくもって初対面であるのに、藤峰は臆することなくヴィヴィの顔を覗き込んできた。
匠海がいないので誰の後ろにも隠れられず、ヴィヴィは頑張って初対面の女性に向き合う。
「それにしても……篠宮君がクウォーターってのは知ってたけど……」
藤峰の反応にヴィヴィは合点がいって、直ぐにフォローする。