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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
(……どれも、ベンツと代わり映え、しなさそう……)
まさか自分の為だけに「無難な国産車に買い替えて」と言う訳にもいかず、そして「どうして?」と理由を尋ねられても答える事も出来ず。
廊下で行き交う生徒を目にし、溜め息を口の中で噛み殺したヴィヴィは、目的の購買部へと入ると修正テープを購入し、次の移動教室へと向かったのだった。
そうして憂鬱な平日を過ごしたヴィヴィは、土曜日のその日は浮かれまくっていた。
6月5日(土)の早朝から昼までリンクで滑り込んだヴィヴィは、匠海と葉山へと向かった。
『泊まり掛けで、葉山の別荘、行こうか』
兄がそう誘ってくれたのは、1ヶ月前の誕生日パーティーの夜。
もちろん二つ返事でOKしたヴィヴィだったが、双子はアイスショーや振付で異常に忙しく、結局誘われてから1ヶ月後にやっと念願が叶ったのだ。
葉山の別荘に着いた兄妹は、玄関ホールに入った途端、まるで何年も生き別れていた恋人同志の様に、熱い抱擁と口付けを交わした、が――、
「今、ヴィクトリアを抱いたら、ずっと寝食忘れて……。そう、明日帰るまで、抱き続けてしまいそうだから……。夜までお預け――な?」
火傷しそうなほど熱い吐息と共に吐き出された匠海のその言葉に、一瞬 顔面蒼白になったヴィヴィは、ぶんぶん頷いて同意したのだった。
(こ、この若さで、まだ死にたくない、デス……)
遅いランチを分け合って摂り、満腹感にソファーでくっ付きながらうとうとして。
夕暮れに染まり始めた浜辺を、一緒に散歩して。
協力してディナーを作り、食べさせあいっこをする。
たったそれだけでも、ヴィヴィは本当に幸せで――。
(こんなに、ずっと……。明日まで、一緒に過ごせるなんて……)
匠海と恋人関係になる前でも、ジュニアに上がった頃からヴィヴィはスケートで忙しくて、兄と長時間を過ごした記憶は無かった。
それにこの別荘で過ごした最後の記憶は、思い出すのも辛い、昨年の9月末の出来事。
だから2人にとって身も心も結ばれてこの地を訪れるのは、とても深い意味を持っていた。