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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
「ふっ その唇も可愛い」
「~~~っ もう、見ちゃ、ダメなのっ」
恥ずかしくて匠海の首筋に顔を埋めれば、その耳元で兄が甘く、そして少し悪戯っぽく囁いてくる。
「ん? どうして?」
「は、恥ずかしいから……っ それに、可愛くないし……」
確かに匠海は毎夜添い寝をする際に、「可愛いよ」「愛してるよ」と囁いてくれるけれど。
正直ヴィヴィは今でも、兄には “身内という贔屓目” があるから、可愛く見えるだけなのだと思っている。
「お前は、あれだな……。異様に自己評価低いところ、あるよな?」
「……そんなこと、ない……、よ?」
兄の指摘にヴィヴィは弱々しく否定する。
自分は小さな頃からフィギュアを通じて人前で演技を披露し、人に見られる立場だった。
だからか客観的に自分の外観を把握する能力には、長けている方だと思う。
「いや、ある。ヴィクトリアは本当に、頭のてっぺんからつま先までどこもかしこも可愛らしくて。もちろん性格も面白いし、心根がとても愛らしい」
「や、やだ……っ」
匠海の褒め殺しに、居た堪れなくなったヴィヴィが困ると、兄は更に言い募ってくる。
「世界中の男が、お前をこうやって膝の間で愛でたいと思ってるさ」
「……そんな、馬鹿な……」
幾らなんでも、それは言い過ぎだろう。
百歩譲ってもしそう思う男性がいたとしたら、きっとそれは父か祖父くらいじゃないか?
「どこが馬鹿? いつも言ってるだろう。俺、しょっちゅう周りから「ヴィヴィちゃん可愛過ぎるっ」って羨ましがられるって」
「……そ、そうだね」
両肩を優しく撫でられ、おずおず兄を見上げたヴィヴィに、匠海は苦笑しながら続ける。
「だから俺、気が気じゃなかったよ、大学進学……。それでなくても男女比4:1なのに、告白されまくるんじゃないかって」
「え゛……、ま、まさか……。はは……」
ヴィヴィの薄い唇の端が奇妙にひくついているのを、匠海は見逃さなかった。
「お前……、もしかして……」
「………………」
匠海の両掌に思わず力が籠められ、ヴィヴィはただ兄を見上げる。
「告白されてるのか?」
「さ……、されて……無く…………は、ない……」
大切な恋人に嘘は吐けなくて、ヴィヴィは馬鹿正直にそう口にする。