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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章               

 両親から海水魚という望み通りの誕生日プレゼントを貰ったヴィヴィは、その翌日――6月20日(日)。

 何故か父グレコリーと銀座にいた。

 白地に青い花柄があしらわれたシャツをさらりと羽織り、ボトムはオレンジのクロップドパンツに白のローファー。

 49歳とは思えぬ引き締まった長身にそのスタイルはとてもお洒落で、ヴィヴィは長い腕に纏わり付いてにっこりと微笑んだ。

 暗めの金髪の頭に、かけていたサングラスを乗せたグレコリーは愛娘に微笑み返すと、通り沿いのブティックへと入っていく。

 てっきり父の物を見るのだと思っていたのに、グレコリーはヴィヴィに高級ブランドのバッグをかわるがわる持たせ、

「う~~ん、これはまだ大人っぽ過ぎるかな? こっちなら、大学にもいけるな……」

 と楽しそうに物色していた。

「え……? これ、ヴィヴィに勧めてるの?」

 その娘の確認に、グレコリーは相好を崩して頷く。

「当り前だろう? ヴィヴィももう大学生。良い物を持つ喜びを知らないとね?」

(え゛……。こんな一目でブランド物と分かる様なバッグ持ってたら、ヴィヴィ、また何言われるか……)

 シルエットひとつで、ほとんどの人間が数十万~百万単位と分かる、有名なブランドバッグを娘に押し付けてくる父。

 『飛び抜けて贅沢はさせない』という教育方針は、どこに行ってしまったのだろう。

「ヴィヴィ、今使ってるバッグ、気に入ってるから、いい!」

 そのバッグだって、(ヴィヴィは知らないが)数十万円する質の良い革を使った物だった。

 何度もあれこれ勧めてくるグレコリーに、ヴィヴィは懲りてブティックから引っ張って連れ出した。

「え~~、バッグは嫌なのかい? じゃあ、ワンピースは?」

「ワ、ワンピース、くらいなら……」

 何やら娘に物を買い与えたくてしょうがないらしい父の様子に、ヴィヴィも譲歩する。

 けれど――、

「だからぁっ こんな良いもの、買って貰えないってっ!!」

 次のブティックで父に押し付けられたワンピースを、試着ルームで袖を通そうとしたヴィヴィは、その信じられない値段を見つめて喚いた。

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