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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章               

「もうやだっ ダッドはヴィヴィがこのショップで何か選ぶまで、テコでも動きません!」

 「あれもヤダ! これもいらない!」と言い張る娘に、グレコリーはへそを曲げ、革張りのソファーに座り込んでしまった。

「え゛ぇ~~……」

 「なんだ、この幼稚園児は……」と心の中で突っ込むヴィヴィに、一連の父娘のやり取りを面白そうに見守っていた男性店員が、仲裁に入ってきた。

「お嬢様。父親というものは、娘を甘やかしたくて仕方のない生き物なのです。ですから娘は父親の与えたい物を喜んで受け取るのが親孝行であり、子供としての務めなのです」

 恭しく述べてはくるものの、その店員の口の端はひくひくと震え、今にも笑い出さんばかりだった。

「………………」

(う、嘘吐け~~……)

 うんうんと頷いて同意する父に、ヴィヴィは紺地に白のボーダーのシャツワンピの肩を竦めた。

「はぁ……、じゃあ、バンケットに来て行けそうなワンピでも……」

 ヴィヴィが手にしていたのは、大学に着て行けそうなデザインのもの。

 こんな高価なワンピで登校し、万が一傷つけてしまったら嫌だし、それに――。

 男性店員にワンピを返したヴィヴィは真面目に、試合後のクロージング・バンケットという華やかな場所に相応しいワンピを選ぶ。

 ピンクとホワイトの大きなギンガムチェックが初々しい、サマーツイードのミニワンピ。

 ツイードの網目が緩く風通しも良いので夏でも涼しく、ノースリーブの袖上と裾には白のツイードレースが付いていてお洒落だ。

 背中は上から下までボタンが付いている――このブランドのロゴ・CCマーク。

 父娘がいるそのブティックは、シャネルだった。

(シャネルから衣装提供を受ける今シーズン、他のブランドのドレスなんて、絶対に着れないよね……)

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