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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
“思春期の娘に構い過ぎて嫌われる父親” の典型的行動を取るグレコリーに、ヴィヴィは「困った人だなあ……」と内心呆れながらも、
「じゃあ、チョコレートだけ……」
そう答え、カメリア(椿)を象ったチョコレートを摘まんで口に放り込んだ。
ビターで濃厚なチョコレートが、口の中で蕩けていく。
先程まで困り顔だったヴィヴィも、途端にふにゃりとその表情を緩め、両手を頬に添える。
「あま~い……♡」
そう言った途端、カシャリとシャッター音がした。
驚いて音のした方を見ると、目の前の父がスマホで自分を撮っていた。
「や、やだ……っ」
(な、何撮ってるの~~っ!?)
「ヴィヴィは本当に、美味しそうに食べるなあ」
能天気な声でそう言いながらまたもや写真を撮ろうとするグレコリーに、傍にいたアテンダントが「宜しければ、お2人の写真を、お撮りしましょうか?」と尋ねてきた。
「ぜひっ」と即答した父に、ヴィヴィは「はは……」と乾いた笑いを零しながら、アテンダントに写真を撮って貰い。
しかし父のその行動のせいで、日曜で満席だったカフェの客達が「ヴィヴィちゃんと、写真撮りたい」と騒ぎ始めてしまった。
しかも本日の客層は少し年齢層が高く、フィギュアのファン層としても一番多いおば様方が多数だった。
(ダ、ダッド……。何て困ったサン……orz)
そう突っ込みながら、心の中で頭を抱えたヴィヴィだったが、
「申し訳ない。ヴィヴィは私とデート中なのでね。写真には応じられません」
流暢な日本語で、父がぴしゃりと写真撮影を断ってくれたのは助かったが、“デート中” という言葉に、今度は客がざわつき始めた。
「え? デート? って事は、あの男性……」
「ヴィヴィちゃん、あんな年上の方と、お付き合いを……?」
確かに父は49歳(双子は31歳の時の子供)だが、頑張れば39歳に見えなくもない。
特に今日は、“愛娘との2人だけのお出掛け” という事もあり、グレコリーはこれでもかと若作りをしてきていた。
「ち、違いますっ 父! 父ですからね? FATHER! DADDYっ です!」
目を白黒させながらそう説明したヴィヴィは、その後、四方八方に向かって「お、お騒がせしましたっ」とペコペコお辞儀をしまくった。