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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
やっと落ち着いて前を向き直れば、父はそんなヴィヴィも可愛いと言わんばかりに、灰色の瞳を細めて眺めていた。
「……~~っ ダッドっ!」
「あははっ ゴメンゴメン。だって、慌ててるヴィヴィも、可愛いからねえ」
全く反省した様子のない父に、ヴィヴィはもう匙を投げた。
(……っていうか、何でこんな事に……。……あ……!)
カップに口付けて落ち着こうとしたヴィヴィは、当初の目的をやっと思い出した。
自分の誕生日プレゼント――海水魚を両親におねだりした時、ヴィヴィは父に提案していた事があった。
「ヴィヴィ、もう18歳だし、大学生になったし……。その、何かダッドの役に立てる事、お手伝い出来る事、無いかな?」
英国では18歳から飲酒と喫煙が可能で、投票権を有する――つまり、成人年齢に達するのだ。
大多数の英国人は、子供との繋がりは “生まれてから18年” と割り切っている。
子供達は基本的に18歳になれば家を出て、友人とルームシェアをしながら独立して暮らす。
大学進学も、学資ローンを自分で借り、何年もかけて細々と返し続ける。
地域差も個人差もあるだろうが、伝統的に18歳の誕生日には、鍵のマークが入ったカードを両親から貰う。
昔は本当に鍵が渡されたらしい。
『何時に帰って来てもいい。何処で何をしていてもいい。後は貴方自身の人生よ』
そう、権利と自己責任の象徴がそのカードという訳であり、両親にとっては子育ての責任を果たした節目にもなる。
娘のその気持ちを汲んだのだろう。
広いリビングルームの中央、大きなソファーセットで両親は顔を見合わせて、やがて苦笑した。
「まさか、ヴィヴィの口から、そんな言葉が出て来る様になるとはねえ」と母が。
「本当だよ。驚き過ぎて、腰抜けそうになった……」と父が。
あまりの言われ様に、ヴィヴィは「むぅ……」と唸り唇を尖らせる。
(ダッドとマムって……。ヴィヴィの事、一体何歳児だと思ってるんだろう?)
その顔が面白かったのか、両親は娘を見つめながら笑い、そして語りだした。
「あのね、ヴィヴィ。私達は “英国の両親像” には、ほど遠かっただろう?」
「え……? あ……、う、うん……」
父の言葉に、ヴィヴィは戸惑いながらも頷く。