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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章               

 以前、匠海の寝室で朝を迎えて早く起きてしまい、そのまま自分の寝室に戻った時があったのだが。

 その時に魚達の可愛らしい寝姿を目にし、ヴィヴィは萌えてしまった。 

 カクレクマノミのペアは、共生しているイソギンチャクの触手の中で眠り、シリキスズメダイ達は、サンゴの陰でぼ~っと目を開けたまま静止して眠っていた。

「はぁ……、癒される……」

 ぽそりと呟いたヴィヴィに対し、

「そうか?」

 そう呟いたのは、匠海。

 いつの間に隣に立っていたのか。

 ヴィヴィはあまりにも魚達に魅入っていたのか、兄の登場に全く気付いていなかった。

 「お帰りなさい」とのヴィヴィの言葉に、匠海は「ただいま」と微笑んで、「そんなに癒される? 熱帯魚って」と先程の続きを促してくる。

 兄を見つめてこくりと頷いたヴィヴィは、視線を大きな水槽へと戻す。

 厚さ1cmのアクリルの先に広がるのは、まるで無重力の様な別世界。

 青い水槽の中、魚達は色鮮やかにたゆたい、イソギンチャクの触手は、クマノミをからかって遊んでいる様にさえ見えて楽し気で。

 オトヒメエビは紅白の縁起の良さそうな身体を小刻みに揺らしながら、岩に付着した物をせっせと捕食して掃除している。

 彼らは生きて行く為、そして他と共生する為に進化し、その形と色を纏っている。

 決して周りの目を気にしてでは無く、ましてや嫌われない様にする為等ではない。

「うん……。なんか、水槽の中、観てると……、地上での他愛も無い事なんて、ちっぽけに思えちゃう……」

 静かに呟いたヴィヴィの瞳は、水槽の中を覗き込んでいるのに、どこか空虚だった。

『この前、何だっけ……? なんとか・オン・アイスとかいう、ショーのCM、観ちゃって~』

『あ~~、私も、観た~……』

『東大のウィンドブレーカー、着ててさ……。え、一緒にしないでっていう……』

『あははっ 言う事、きっつ~っ!』

 昨日耳にしてしまった影口が脳裏をよぎり、ヴィヴィの灰色の瞳が微かに曇る。

 そうだ。

 全ての事柄が起こっているのは “地上”。
 
 決して “氷上” での事ではない。

 だから、我慢出来る。

 まだ、頑張れる。

 我慢していれば、いつかきっと――、

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