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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
頭を撫でられる感触にふと顔を上げたヴィヴィを、匠海が覗き込んで来る。
「……何か、悩んでるのか……?」
そう確認してくる兄の表情が、とても心配そうなもので。
(お兄ちゃん……?)
こてと首を傾げたヴィヴィは、心底不思議そうに匠海を見返す。
「え? どうして?」
「…………いいや」
「そ?」
その時、双子のリビングを繋ぐ扉が開かれ、朝比奈が入って来た。
「お嬢様、また髪の毛を濡らしたままで……。匠海様もハーブティー、ご一緒されますか?」
ヴィヴィを窘め、匠海を茶に誘った朝比奈に、2人はお願いしてまた水槽に視線を戻す。
「この白と紫の……、なんかヴィヴィに似てるな?」
「え、そうかな?」
兄の指差す先にいたのは、アケボノハゼ。
上半身は白く、下半身に行くにつれ、紫のグラデーションとなっている。
細長い魚体には、上半身に上下の細長いヒレ、下半身には幅広の背ビレと腹ビレが連なり、青と紫でとても色鮮やか。
「うん。この頭の上の長いヒレ……。旗みたいなの、ぴんぴん動かして可愛らしいし。すぐに巣に戻って、ちょっと臆病なところも、そっくり」
「え~~……、ヴィヴィ、こんなに目付き悪い?」
兄の指摘に、ヴィヴィは少し不服そうな声を上げる。
頭の上から口まで紫色のラインが入っており、それがキツイアイラインの様で、少し目付きが悪く見えた。
「いいや。ヴィヴィのお目めはとても可愛いよ。よし。この子の名前は “ヴィー” にしよう」
「え? 違うよ。この子は “ピンキー” なの」
既に自分の名付けた名前を言ってくる妹に、兄は譲らない。
「でも俺は、ヴィーと呼ぶと決めた」
そんな匠海が何だか可愛らしくて、ヴィヴィはぷっと吹き出して微笑む。
「ふふっ しょうがないなあ、もう。あ……、ちなみにマドカがつけた名前は、“鬼瓦” だよ?」
「は……? 鬼瓦……?」
きょとんとした表情で聞き直してくる匠海に、ヴィヴィは頷く。
「うん。人相(?) 悪いからってさ」
「ははっ お、鬼瓦……っ あはははっ」
円の個性溢れ過ぎで強烈な名付けに、匠海は声を上げて笑い。
朝比奈が淹れてくれたハーブティーを飲みながらも、時折、
「ふ……、鬼瓦って……っ」
そう思い出し笑いする程、兄のツボに嵌ったらしかった。