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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第27章
馬場から戻り起きていたクリスと夕食をとった後、双子は営業を終えたリンクへと赴き練習を重ねた。グランプリシリーズ初戦のスケートアメリカで優勝したものの、課題は沢山浮き彫りになった。双子もコーチ陣も現状に甘んじることなくさらに上を目指してこつこつと一歩ずつ前へと進む。
日付が変わるころに篠宮邸へと帰宅したヴィヴィは、温かい湯に疲労困憊の身体を委ねながらお昼のことを思い出していた。
『不思議な奴だよな、匠海って……。軽薄なわけでも非情なわけでもなく凄く面倒見がよくてモテるのに、特定の相手と付き合わないっていうのもな……』
一年前の夏――麻美という女性も同じようなことを言っていた。
(お兄ちゃんが特定の女性と付き合わない……か……)
どうしてだろうと、ヴィヴィは小さな頭の中で思考を巡らせるが分からない。
「面倒くさい……とか……?」
湯気の立ちこめる広いバスルームに、ヴィヴィの小さな呟きが響く。
(博愛主義……? 来る者拒まず……? 女性との付き合いは、躰だけで満足……とか……?)
ちゃぷんと水音を立てて、ヴィヴィは長い脚を白濁の湯からにょきっと出してバスタブの淵へと載せる。
(……昔、好きな人がいて……失恋して「恋愛」することに臆病になったとか……?)
「………………」
ヴィヴィはデータの貧困な自分の恋愛脳を駆使して考えてみるが、どれもしっくりとこない。
「まあね……私には、好都合……なの、か……な……?」
ヴィヴィには「匠海からの愛情を一身に受け止めている」という自負があった。それはいつも自分に注がれる優しい瞳、触れてくる指先、向けられる自然な笑顔からも痛いほど伝わってくる。
それは、紛れもなく「たった一人の妹」だから――。
ただ、それだけ。
女性として愛されているわけではないことは、ヴィヴィだって身に染みて分かっている。
(それは、分かってるの……)
けれどヴィヴィは今まで、匠海が自分以上に誰か他の女性を大事にしていたり、慈しんでいたりする場面に遭遇したことはなかった。
「………………」
ヴィヴィはゆったりと波打つ水面を暫くぼうと見つめていたが、やがて静かな水音を立ててバスタブから出ると、バスルームを後にした。