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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第27章
手早く体を拭いてバスローブに袖を通すと、私室のリビングの飾り棚からそれを取出し、匠海の部屋へと向かう。ノックをすると、わざわざ匠海が扉の所まで来て開けてくれた。
「おかえり、ヴィヴィ」
「ただいま……ちょっと、いい?」
ヴィヴィがそう言って匠海を見上げると、匠海は「もちろん」と言ってヴィヴィにソファーを勧めてくれた。しかしソファーに座るとすぐに匠海から「こら! 髪濡れているじゃないか。ちゃんと乾かしなさい」とお小言が飛ぶ。
「すぐに乾かすから、平気」
とヴィヴィは言ったが匠海は聞く耳を持たず、バスルームからタオルを取って戻ってきた。ヴィヴィの小さな金色の頭にパサリとタオルが落とされるとその上からまるで大型犬を拭くように、がしがしと髪を拭かれる。
「もうすぐ十一月なんだから。風邪ひいたら大変だろう?」
呆れたようにそう言って手早くヴィヴィの長い髪を拭く匠海の顔を、ヴィヴィはタオルの合間からじっと見上げた。
「……これ……」
ヴィヴィは小さくそう言うと、バスローブのポケットからそれ――スケートアメリカの金メダルを取り出す。
「あ、この前の?」
匠海は興味深そうにヴィヴィの手からメダルを受け取ると、大きな掌の上にそれをのせてしげしげと見つめていた。
「凄いよな……これでヴィヴィもクリスも、本当の意味でのトップスケーターの仲間入りだ……」
感慨深げにそう言う匠海の顔は、なぜか一瞬、少し寂しそうにも見えた。
「これ……貰ってくれる……?」
遠慮がちにそう言ったヴィヴィに、匠海が意外そうな表情で見下ろしてくる。
「くれるの? でも、初めてのシニア国際大会のメダルなのに……」
ヴィヴィはふるふると頭を振ると、ひたと匠海を見上げる。
「これより、もっと凄いの……取るから……」
「凄いの? これだって十分凄いけれど……?」
「ううん。グランプリファイナルもあるし……オリンピックも……」
「まあ……、そう言われれば、そうだけどね……」
少し思いつめたような表情のヴィヴィに、匠海は一瞬言葉を詰まらせたが直ぐに苦笑する。
「ありがとう。ヴィヴィの大事なものを俺にくれて。……でも、俺はこれだけでも充分だよ」
匠海はそう言うと、ヴィヴィの頭をタオルの上から優しくなぞる。
「…………?」