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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
しかも、双子は分刻みのスケジュールを送る多忙な毎日を送りながらも、(試験前日までショーや試合があったりするので)毎日の講義の予習復習を欠かさない、真面目な学生。
“授業の出席が不十分な人” ――要するに、「講義出るの、かったるい……」「デートが……」「バイトが……」「寝坊したぁ」等という理由でサボっているクラスメイトの為に、忙しい時間を割いて、シケプリを作る羽目になろうとは。
「まあまあ、ヴィヴィも、手伝うし……、ね?」
そうフォローするヴィヴィと、
「あんた達も試合やらで講義休む時、誰かかしらノート借りたりするでしょう? ぐだぐだ言わずに、とっとと作れ!」
そうクリスの尻を叩く円。
そして、傍で「うんうん」「そうだそうだ」と円の意見に同意する、塩川や三宅をはじめとする、クラスメイトの男子ども。
「はぁ……。分かったよ……」
しぶしぶ頷いたクリスは、その日の夕方に参加したスケート部の部練で、先輩方に頼み込んで過去問を手に入れたのだった。
翌日、大学から直接リンクへと移動した双子は、8月頭に控えているTHE ICE2021の番宣を撮り。
その翌日、7月3日(土)。
早朝からリンクで汗を流したヴィヴィは、デートの予定のあるクリスと別れ、屋敷で楽器練習と試験勉強に励んだ。
そして夜、軽くディナーを採り着物を着付けて貰ったヴィヴィは、チャコールグレーのスーツに身を包んだ匠海と、連れ立って篠宮邸を出発した。
14歳の正月に纏っていたその着物は、浅葱色(緑がかった空色)の地に大きな牡丹や小槌などが描かれている、7月という季節にもそぐう美しい着物。
着慣れない着物の帯の苦しさに辟易しながらも、ヴィヴィはベンツの中でしゃきっと背筋を伸ばしていた。
その小さな顔には、常日頃ではありえないほどの緊張感が漲っている。
「ふ……。そんなに畏まらなくても、大丈夫。気楽に構えてればいいから」
着物に包まれた膝をぽんぽんと撫でて妹をあやす匠海に、ヴィヴィは「う、うん……」とどもりながら頷く。
(そ、そっか……。気楽でいいんだ、気楽で……うん……)
品川区のマリオットホテル東京に到着すれば、兄妹と同じ様ないでたちの人々がロビーへと吸い込まれていく。