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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
丁寧に一人ひとりに挨拶したヴィヴィに、一番喰い付いてきたのがユニ・チャーミの高原代表。
ベビーケア・フェミニンケア・ヘルスケアなどの関連製品を販売する日本の企業だ。
「本当はうちも、ヴィヴィちゃんのスポンサー、狙ってたのに。今後もしP&Jと契約切るなら、速攻ここに電話して!」
名刺に記されていた携帯電話の番号を指さしながら真顔で迫ってくる高原代表に、ヴィヴィは「はははっ あ、ありがとうございます」と苦笑いしたのだった。
立食パーティーで人がごった返す中、周りは知らない人ばかり。
しかもほとんどが大企業の社長や、彼らと契約を結ぶ凄腕弁護士。
さすがに1時間くらいでその微笑みが引き攣り始めたヴィヴィを、匠海はそっとバンケットホールの外へと連れ出してくれた。
バンケットからは少し奥まっていて、人気の無い場所へと向かう兄に、慣れない草履でちょこちょこと着いて行く。
2000坪もある広大な庭園が見渡せるテラスへと連れて来られ、ベンチを勧められたヴィヴィは、そこに腰を下ろしてほっと息を吐いた。
「お疲れ。初めて続きで、大変だったな」
そう労ってくれる匠海に、ヴィヴィは小さく首を振って微笑む。
「ううん。お兄ちゃんが、うまくフォローしてくれたから」
ヴィヴィが初対面の社長に言葉を詰まらせた場面でも、兄の柔らかな声で優しく続きを促されると、落ち着いて会話も出来て。
心から「ありがとう」と感謝の言葉を述べたヴィヴィに、匠海は頭を振る。
「それは俺の言葉。“ヴィヴィ” は俺と一緒にいる時は人見知りなのに、良く頑張ってくれてる」
兄のその言葉に、15歳の正月、英国大使館で父に言われた言葉がヴィヴィの脳裏に過ぎる。
『スケートの時は隣に寡黙なクリスと、鬼コーチモードのジュリアンしかいないから、人見知りしていたら場が成り立たなくて、自分から一生懸命周りに打ち解けようとしている。一方匠海が傍にいると、自分が回りにすぐに馴染めなくても匠海が甘やかして溶け込まそうとしてくれるから、“人見知り” を発動するんだ』
自分でも気付いていたなかった父のその指摘を思い出し、ヴィヴィは困った様に微笑むと、匠海に視線を戻す。