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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

(かっこいい、なぁ……)

 チャコールグレーのスーツに白シャツ、白地の爽やかなネクタイが夏らしくて、匠海によく似合っている。

 今日の客は女性連れが多く、その女性達から兄が熱い視線を浴びているのを、ヴィヴィは気付いていた。

 最初は「お兄ちゃんのこと、そんな目で見ないでっ」と心の中で喚いていたヴィヴィだったが、その内その気持ちも変化した。

 血の繋がりのある妹の自分でさえ恋に落ちてしまうほど、匠海は素敵な男性。

 異性の視線を独り占めしようが、そんな事でいちいちやきもちを焼いていては、すぐに焼け焦げてススになってしまう。

 匠海もそんなヴィヴィを見ていたら、疲れるだろうし。

 そして何より、兄は自分に毎日「愛している」と心の内を見せてくれ、ヴィヴィもその気持ちを受け止めて返していた。

(だから、やきもちなんて、焼かないんだ~~。出来る限りは、ね……)

 庭園から吹いてくる涼しい夜風に当たり、しばしの休憩を取った兄妹は、また会場へと戻り。

 その後も匠海のエスコートは、ヴィヴィに負担を掛けない完璧なものだった。

 帰りの車中、ヴィヴィは兄の隣で、一心不乱にスマホでメールを打っていた。

 片手に頂いた名刺を握りながら、うんうん唸ってメールを打つヴィヴィに、匠海が不思議そうに尋ねてくる。

「ヴィヴィ、そんな事してたら、車に酔うぞ? っていうか、何してる?」

「ん……。今日ご挨拶した人の事、忘れないように……」

 数えてみると40枚もの名刺を頂いていたヴィヴィは、その記憶が薄れない内に、彼らの特徴を書き留めていた。

 ・話した内容

 ・くせ、特徴

 ・食事の好み

 ・共通する人物

 などを羅列したものを朝比奈に送ったヴィヴィは、「Accessのデータベースに登録しておいて」と最後にメールしておいた。

「真面目だな」

「だって……。ヴィヴィ、何の役にも立てないし……」

 兄の突っ込みに、ヴィヴィは眉をハの字にして凹む。

 確かに今日、五輪金メダリストのヴィヴィに、興味をもって相手してくれた人達は沢山いた。

 何もかもが初めてで、圧倒されっぱなしのヴィヴィは、それでも頑張って挨拶したが。

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