この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
(かっこいい、なぁ……)
チャコールグレーのスーツに白シャツ、白地の爽やかなネクタイが夏らしくて、匠海によく似合っている。
今日の客は女性連れが多く、その女性達から兄が熱い視線を浴びているのを、ヴィヴィは気付いていた。
最初は「お兄ちゃんのこと、そんな目で見ないでっ」と心の中で喚いていたヴィヴィだったが、その内その気持ちも変化した。
血の繋がりのある妹の自分でさえ恋に落ちてしまうほど、匠海は素敵な男性。
異性の視線を独り占めしようが、そんな事でいちいちやきもちを焼いていては、すぐに焼け焦げてススになってしまう。
匠海もそんなヴィヴィを見ていたら、疲れるだろうし。
そして何より、兄は自分に毎日「愛している」と心の内を見せてくれ、ヴィヴィもその気持ちを受け止めて返していた。
(だから、やきもちなんて、焼かないんだ~~。出来る限りは、ね……)
庭園から吹いてくる涼しい夜風に当たり、しばしの休憩を取った兄妹は、また会場へと戻り。
その後も匠海のエスコートは、ヴィヴィに負担を掛けない完璧なものだった。
帰りの車中、ヴィヴィは兄の隣で、一心不乱にスマホでメールを打っていた。
片手に頂いた名刺を握りながら、うんうん唸ってメールを打つヴィヴィに、匠海が不思議そうに尋ねてくる。
「ヴィヴィ、そんな事してたら、車に酔うぞ? っていうか、何してる?」
「ん……。今日ご挨拶した人の事、忘れないように……」
数えてみると40枚もの名刺を頂いていたヴィヴィは、その記憶が薄れない内に、彼らの特徴を書き留めていた。
・話した内容
・くせ、特徴
・食事の好み
・共通する人物
などを羅列したものを朝比奈に送ったヴィヴィは、「Accessのデータベースに登録しておいて」と最後にメールしておいた。
「真面目だな」
「だって……。ヴィヴィ、何の役にも立てないし……」
兄の突っ込みに、ヴィヴィは眉をハの字にして凹む。
確かに今日、五輪金メダリストのヴィヴィに、興味をもって相手してくれた人達は沢山いた。
何もかもが初めてで、圧倒されっぱなしのヴィヴィは、それでも頑張って挨拶したが。