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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 2回目からはそうもいかない。

 ちゃんと相手の顔と名前と人となりを頭に叩き込んでいないと、既知の人物に「初めまして」等と挨拶する失態を犯してしまう。

 ヴィヴィの失敗は、匠海の信頼の失墜に直結する。

(ヴィヴィ、少しでもお兄ちゃんの役に立ちたいの……。だって、ヴィヴィ、それくらいしか出来ないから……)

「ヴィヴィ、ありがとう……。良い妹だな、お前は……」

 妹の気持ちが解ったのだろう。

 灰色の瞳を細めた匠海は金色の頭を撫でながら、そう褒めてくれた。

 そして屋敷に帰り着き、添い寝する時には、

「ヴィクトリアが恋人で、俺は本当に幸せ者……」

 と、ヴィヴィが飛び上がって悦ぶ様な事を言ってくれたのだった。

 けれど、

「だが、無理はするなよ? 俺がお前にそんな事を望んでないのは、分っているね――?」

 どうもひとりで思い詰めて突っ走る傾向のある妹に、そう釘を刺すのも忘れない匠海なのであった。








 翌日、7月4日(日)。

 いつも通り早朝からリンクへ赴いたヴィヴィは、レッスンを終えるとその足で渋谷区幡ヶ谷に向かい。

 何故か、子供達と遊んでいた。

 3日後に迫る七夕の準備をしながらも、飽きたらピアノを弾いて、皆で歌ったり踊ったり。

 小学生達と短冊を作るヴィヴィは、

「今年は何を、お願いしようかな~~?」

 と早々に自分のお願いごとを短冊にしたためようとし、

「まだだって! 7月7日に書くのっ」

 そう小学生に窘められていた。

「ははっ どっちが子供か、分かんないね」

 そう笑い飛ばすのは、篠宮ホールディングスのグループ会社の社員・一条という40代の男性。

 篠宮の稼業であるグループ内の社員達で形成されている、ボランティアグループの代表だ。

 児童養護施設 新緑寮に定期的に訪問し、子供達との交流を深めており、約15名の社員が入れ代わり立ち代わり訪ねているらしい。

 そして、ヴィヴィが何故ここにいるのかは、父グレコリーと銀座デートをした、6月半ばに遡る。


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