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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第27章
不思議そうに匠海を見上げたヴィヴィに、兄は微笑みかける。
「結果だけが全てじゃないだろう? もちろん優勝するのは素晴らしいことだけれど……ヴィヴィが自分の満足出来る演技が出来ることのほうが、俺には嬉しいよ」
「………………っ」
ヴィヴィの心は匠海のその表情と言葉に、文字通り打ち抜かれた。きゅうと胸の奥の心臓が苦しさを伴い疼く。
(どうして……?)
どうしてこんなにも他人の幸せを請い願う事の出来るお兄ちゃんが、一人の女性を深く愛さないのだろう?
どうしてこの世界には、その対象と成りうる私以外の女性が存在しているのだろう?
どうして……
私はお兄ちゃんの恋愛対象に、成ることが叶わないのだろう――?
「………………」
その答えは分かっている。痛いほど分かっている。分かり切っている。
(けれど……)
ヴィヴィは膝の上でぎゅっと自分の手をもう片方の手で握りしめる。
「ねえ、お兄ちゃん……」
ヴィヴィの唇が震えながらも言葉を紡ぐ。
「ん?」
そう相槌をうって注がれる匠海の眼差しには、紛れもない愛情が宿っていた。
愛情――『妹』である、ヴィヴィに対する、親愛なる家族への『情』。
(でも…………もう、それだけじゃ、我慢、できないの――)
「もし……もしも、だよ……? ヴィヴィがオリンピックで金メダルを取れたら……」
「取れたら?」
先を促す匠海の声に、ヴィヴィは一瞬ぴくりと唇を震わせたが、匠海の灰色の瞳を見つめて必死に声を振り絞った。
「……ヴィヴィの、願い事……叶えてくれる……?」
その声は、ただの妹がただの兄に物を頼むには、あまりにも必死すぎたかもしれない。けれど匠海はそんなことを気にも留めなかったようで、即答した。
「いいよ」
その答えに驚いたのは、ヴィヴィだった。自分からお願いしておきながら、あっさりと自分の我が儘を叶えると言ってくれた匠海を信じられない面持ちで見上げる。
「そんな……そんなに簡単に、『いいよ』って言っちゃって……大丈夫――?」
「大丈夫。それくらいの『許容量』はあるつもり」
にっと白い歯を覗かせ、匠海は笑って見せる。それはそうだろう。まさか血の繋がった実妹がとんでもない事を叶えてほしがるとは、匠海は露ほども思っていないのだから。