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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
火曜日の5時限目に取っている、1・2年生を対象とした “学術俯瞰講義”。
ハーバード大学の政治哲学者:マイケル・サンデル教授で有名になった、ソクラテス方式(講義ではなく、教員と学生との闊達な対話で進められる授業形式)を取り入れた講義で、ヴィヴィが一番楽しみにしている講義。
レポート提出での単位取得なので、それを提出する為にアドミニストレーション棟へと向かう。
(ええと……、ボックス番号は……)
スマホで教養学部のHPを開き、レポートボックス開設状況を確認したヴィヴィは、
「No.14のボックス……14……14……」
ぼそぼそ呟きながら到着し、1階ロビーにある教務課レポートボックスに辿り着いた、が――。
「………………」
ぴたりとミュールを履いた両脚を止めた、ヴィヴィの視線の先にいたのは、2年生女子の宮崎 佳苗。
6月の頭からずっと、自分の陰口を叩いている女子達の、リーダー格の生徒だった。
どうやら佳苗も同じ講義のレポートを提出しに来たらしく、No.14のボックスを閉じてこちらを振り返り、
「あ、ごめんなさい。立ちはだかっちゃっ……て……」
そう言いかけた佳苗は、後ろにいた人物がヴィヴィだと気付き、はっと表情を改める。
相手は一応先輩なので、ぺこりと金色の頭を小さく下げて会釈したヴィヴィに、佳苗は無言のまま場所を譲る。
バッグから取り出したレポートに不備がないか確認したヴィヴィは、それをボックスに入れた。
その時、
「浅いのよ……」
ぼそりと囁かれたその言葉に、ヴィヴィはふっと振り返る。
視線を合わせた佳苗は、微かな嘲笑ひとつを置き土産に、ロビーを横切って出て行ってしまった。
「………………」
ゆっくりとボックスに向き直り、その引き出しを閉じたヴィヴィの白い指が、ぎゅっと掌の中に握り締められる。
( “浅い” のは、どちらだ……っ)
2週間前に行われた講義の題材――モラル・ジレンマと功利(こうり)主義。
功利主義とは、簡単に言えば “最大多数の最大幸福”。