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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「そんな、贅沢な……」
思わずそう零したヴィヴィに、朝比奈は譲らなかった。
「そう仰られましても、お2人とも……。毎日7時間のレッスンを受けつつ、月曜はロシア語、水曜はバレエ……。10日間の学期末試験に複数回のテレビ収録、3度のアイスショーへの出演に3日間の強化選手合宿、8日間の家族旅行――というスケジュールを熟しながら、“この2ヶ月半” で免許取得までなさりたいのですよね?」
その言葉の裏側には「無茶言ってんじゃねえよっ!?」という、朝比奈の本心が見え隠れしていた。
「う、うん……」
「そ、そうだね……」
自分達の執事の迫力に圧倒された双子は、結局そのコースで契約を交わそうとしたのだが。
「じゃあ、ヴィヴィは、AT(オートマ)限定で」
そう言いながら、サインしようとペンを握ったヴィヴィに、
「は? 何言ってるの……? MT(ミッション)に、決まってるでしょ……」
クリスのその突っ込みに、ヴィヴィはこてと金色の頭を傾げる。
「え? どうして?」
「だって、僕達……。当分は車、共有するんでしょ……?」
「え、あ、うん……」
双子で1台の車を共有する――それは以前から2人で話し合っていた事。
2人とも、どうして急いで車の免許が取りたいかというと「何時でも行きたい時(深夜・早朝も含む)に、リンクに行って練習したいから」で。
それだけなら、1人1台もいらないから、当分車を共有する事になっていたのだが。
「え……、もしかしてクリス。MT車、買うつもりなの?」
「もちろん……。当たり前でしょ……」
「えぇ~~……っ MTめんどくさいよ~~! 半クラとかいうの? 毎回しなきゃ、なんでしょう!?」
桃色の唇を尖らせながら、そう異論を唱えたヴィヴィだったが、「絶対にMTで免許取った方がいい」「MT車は面白いよ」と散々クリスから説得され。
結局、MTの免許を取るコースを選んだ双子は、それからちょこちょこと合間を見つけては、教習を受けていくことになった。
本日も原付の免許を取得する為、きゃっきゃ言いながら教習コースで実技レッスンを受ける双子。
そしてそんな双子を見守りながら、朝比奈が心の中で一言。
(お2人の意見が対立した場合、最後に折れるのは、殆どの場合がお嬢様、なのですよね……。意外な事に……)