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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章

明日から夏学期の期末試験が始まろうという、7月15日(木)。
講義の合間の10分の休憩中、30名のクラスメイトは、小講義室でわいわい騒いでいた――各々の手に、スマホやタブレット等を持ちながら。
『2022年夏学期版「教員教務・逆評定」アンケートご協力のお願い』
メーリングリストを介して一斉送信されたそのメールは、時代錯誤社という東大のサークルから送られたもの。
教養学部生(1・2年生)の舞台となる駒場キャンパスでは、学期頭になると「逆評定」なる小冊子が流布する。
これは学生から集めたアンケートに基づき、講義を担当する全教官について、講義の楽さや単位の取りやすさを「大仏」「仏」「鬼」「大鬼」の四段階で評価するという、駒場生必携のアイテム。
(なになに……。試験等難易度 : ①サルでも解ける ②易しい ③難しい ④院の試験並みに難しい ……)
スマホでアンケート内容を覗いたヴィヴィは、各項目に目を通す。
ちなみに、「仏」や「大仏」というのは、次のような教官。
・講義は10分遅く始まり、終鈴5分前に終わる
・試験は辞書やノート持ち込み可、教科書からしか出題されない
・レポート1回出せば単位が出る
・数年単位で出す試験問題が同じ
・よほどの事がない限り「優」をくれる。
いかにそうした教官の講義をうまく履修し、高い点数を稼ぐか――その参考にするのが「逆評定」という冊子なのだ。
「………………」
(こ、ここの学生は……、真面目に勉強する気、あるのかな……?)
天下の東大に入っておきながら、シケプリ(試験対策プリント)を当てにして講義に出席すらしない学生を見ていると、ヴィヴィはどうしてもそう感じてしまい。
「今日ね……、“逆評定” のアンケート、来てたの」
毎夜の匠海による添い寝の時間。
少し呆れ顔でそう呟いたヴィヴィに、その華奢な躰を長い腕の中に閉じ込めていた匠海は、ふっと思い出し笑いをする。
「 “逆評定”。懐かしいな~。俺らもよく買ってたな~」
「え? お兄ちゃん、あんなの買ってたのっ!?」
勉強大好きで真面目な匠海が、そんなものに手を出していたとは。

