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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 心底驚いて灰色の瞳を丸くしたヴィヴィに、匠海は「あんなの、って」と苦笑する。

「ヴィクトリア、知らないのか? “逆評定” は教官達も買ってるんだぞ?」

「ぇえっ!?」

 匠海の説明によると、学生にとっては履修の参考という意味あいのあるそれを、教官の中でも「自分へのコメントが気になる」と買っていく人もいるらしい。

 大学側の行っている “授業評価アンケート” と一緒に読む教官や、「私は大鬼だったわ!」と喜ぶ教官までいるらしい。

 逆に「私の授業が取り上げられていないではないかっ!」と抗議をしに来た教官もいたそうで。

「ヴィクトリアは、意外と “真面目” だよな」

「え? ぁ……っ んんっ」

 兄の言葉に唇を開いたヴィヴィを、匠海はそのまま奪ってきて。

 舌を絡め捕られながらも、ヴィヴィは胸の中で首を捻る。

(ヴィヴィ、もしかして……。頭、固いのかな……?)

 頬に添えられた掌の先、指の腹で耳の後ろを撫でられて、ぴくぴくと肩を震わせるヴィヴィ。

「……ヴィヴィ、堅物(かたぶつ)……?」

 気持ちのいい口付けから解放された途端、そう呟いたヴィヴィに、

「いいや。どこもかしこも柔らかくて、可愛いよ」

 面白そうに囁き掛けてくる匠海の片手は、夏物の薄いナイトウェアの上から、控えめな乳房をふよんと撫で。

「ひゃんっ そ、そういう意味じゃぁ……。あ、ダメっ」

 自分の寝室で、事に及ばれては堪らない。

 そう慌てて兄を制止するヴィヴィに、匠海は「分かってるって」と笑いながらまた唇を重ねて来て。

 柔らかくそれを受け止めながらも、ヴィヴィは「もしかしたら――」と思う。

(もしかしたら “逆評定” も “シケプリ” も、東大生ならではのウィット(機知)に富んだ遊び……?)

 学生の本分の勉強も、単位取得も、教官達との付き合いも、全力で “楽しむ” 東大生達。

 ようやくそれに気付いたヴィヴィ。

 それからは、こういうくだらなそうな行事にも、面白がって参加するようになったのだった。





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