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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「………………」
(本当は、全部自分で、解決したいけど……。少しくらいなら、愚痴、聞いて貰っても、いいかな……?)
やっぱり甘ったれのヴィヴィはそう思い、躊躇しながらも薄い唇を開いた。
「あの、ね……?」
「ん?」
ようやく話す気になったらしい妹を、兄は優しく瞳を細めて見守る。
「……ヴィヴィ……、嫌い、になってしまいそうな人が、いるの……」
「ふうん?」
まだ先が続くと匠海は思っているようだったが、ヴィヴィはそれ以上言う気はなかった。
ぽすっと兄の肩に顔を埋める。
影口を叩かれる様になり、大学へ行くのが憂鬱になった。
今は慣れた訳ではないが、そんな事で自分の時間が暗いものになるのが嫌で、なるべく気にしないように心掛けている。
そして、それよりもヴィヴィの心を苦しませていたのは、先程口にしたこと。
この18年間、ヴィヴィは本当に周りに恵まれてきた。
妬まれることも非難されることも貶めらることも無く、非常にのびのびと育った。
まあ、BSTが英国式教育法で、個性をいかんなく伸ばし育てるものだったし、クラスメイトがほぼ外国人というところも大きかったのだろうが。
だから周りの人間に「嫌い」という感情を持った事が、無かったのだ。
(人を、嫌いになってしまいそう……。こんな酷くて後ろ向きな感情、持ちたくないのに……)
匠海は何も言わなかったし、ヴィヴィもそれ以上何も言わなかった。
答えが欲しかった訳じゃない。
大概の女性がそうであるように、ただ聞いて欲しかっただけ。
今の自分のもやもやした気持ちを、受け流して欲しかっただけ。
大きな掌が妹の頭を撫で始め、その指先はゆっくりと背中の中程まである金糸の髪を梳き始めた。
時折指の腹で頭皮を撫でられるのも、心地好くて。
(きもち、い……)
兄の指に酔いしれていると、大分経ってから匠海は口を開いた。
「それは、人間として、当たり前なんじゃないか?」
「え?」
一瞬何に対してそう言われたか解らなくなるほど時間を置いてから、匠海は妹の告白に対して言葉を紡ぐ。
きっと真面目な兄のこと、ずっと頭の中で色々と考えを巡らせてくれていたのだろう、ヴィヴィの為に。