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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「周りの人間に対して、好き嫌いという感情を持ってしまう……。そんな事は、俺にとっては常識で、当たり前だから」
「……お兄ちゃん、嫌いな人、いるの……?」
広い肩に顔を埋めたまま、もそもそと尋ねれば、
「いるさ。沢山ね」
その兄の返しに、ヴィヴィはゆっくりと顔を離した。
「意外……」
(お兄ちゃん、こんなに優しくて、包容力もあるのに……。嫌いな人、なんて、いるんだ……?)
「俺は、寛容な神でも八方美人でも、ないんだぞ? 嫌い――まではいかなくても、苦手な人間、関わりたくない人間くらいいるさ」
苦笑する兄に、ヴィヴィはこくりと頷く。
「……うん……」
「そうだな……、ユングのシャドウ(影)、習った?」
兄の問いに、ヴィヴィはおずおずと呟く。
「うん……。個人的影と、普遍的影……だよね?」
心理学Ⅰで習った。
心理学者のユングが、提唱したそれ。
“人が受け入れられないもの” をシャドウ(影)といい、それには2種類ある。
個人的影 : ジキルから見た “ハイド”
普遍的影 : (人類に共通して悪とされている)鬼、悪魔
“人が受け入れられないもの” は個人差は有りこそすれ、万人の心の中に存在している。
「……そ、う……、そう、だよね……」
(人間、なんだもん……。好き嫌いがあったって、当然、なんだよね……?)
そう思うと、すっと心が軽くなった気がした。
嫌いにならないに越したことは無いだろうか、だからと言って、ヴィヴィが万人を愛さなければならない理由はない。
自分は教職者でも神職者でも無いのだから。
「なに……? お前、俺の事が嫌いになりそうって?」
いきなりそんな言葉と共にごつっと頭突きを食らい、ヴィヴィはぽかんとする。
「……へ……? な、なんで?」
「だって、ヴィクトリア。俺のこと “変態” 呼ばわりするし」
そうぼやく匠海の瞳は、若干据わっていた。
「……っ さ、最近は、言ってないもんっ」
(ていうか……。お兄ちゃんが変態じみたこと言うから、突っ込んでるだけだし……)