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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
ルッツは、左足のアウト(外側)エッジに乗って後ろ向きに滑走し、左肩をぐっと入れて右のトウ(爪先)をついて跳ぶ。
コーチ達から口酸っぱく言われている、左足のエッジは確実にアウトに乗っているのに、右のトウを付く位置が心なしかいつもより遠い気がする。
屋敷からすぐに着いてしまう松濤リンクに降り立つと、ヴィヴィはストレッチを済まし、早速リンクで試してみた。
少しずつ、思っている位置より近く――踏み切りの左足の傍に、右のトウを付いてみる。
本当に少しずつ、微調整しながらそれを繰り返し、動画で見直して。
「やっぱり……、そうだ……」
なんと、不調の原因はこれだったのか。
次はフリップを確認する。
フリップは、ジャンプする直前に左足のイン(内側)エッジに乗り、右のトウをついて跳ぶ。
ルッツと同じ様に、こちらも動画で確認すると、右のトウの位置が若干常とずれている。
何度も転びながら微調整を続けていくと、すっと軽く飛べる時がある。
まるで細い針穴に一発で糸が通せたような、すとんと心と身体が落ち着く瞬間。
踏み切りの瞬間に重心の真下に両脚が位置せず、バランスが崩れて力強く氷を蹴れず。
転倒せぬようバランスを保とうとし、回転姿勢が取れずに派手に転倒してしまっていたのだ。
「…………そっか」
流れのあるランディングで着氷したヴィヴィは、柿田トレーナーの傍に寄り、撮って貰った動画を見直す。
(大事、なんだな……。自分のスケーティングを、 “毎日” 動画で確認するのは……)
小さな頃からコーチであるジュリアンが、自分達に課してきた事。
それを、試験勉強を理由におざなりにしていたから、こんな事になってしまったのか。
「調子、戻ったみたいね?」
ジュリアンの声にはっと顔を上げたヴィヴィへ、母はにたりと嗤ってみせる。
「……すみません、でした」
素直に謝ったヴィヴィに、満足そうに頷いた自分のヘッドコーチ。
娘が自分の課した日課をサボっていたからこうなった事、を最初からお見通しだったらしい。
(ヴィヴィ、一生、頭上がんないな……)
母にも親孝行したいのに、手間ばかり掛けてしまって。
ヴィヴィは申し訳無さそうに、細い肩を竦めたのだった。