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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「ふふっ もちろん。っていうか、ヴィヴィもこっちは、初見だし」
ヴィヴィが練習していたのは、オケ版のソロヴァイオリンの譜面。
ピアノ伴奏のヴァイオリンの譜面とは、やはり若干違っていた。
「じゃあ、僕、譜面めくる……」
ピアノ譜は何ページにも渡っているので、匠海の譜面をめくると言い出したクリスに、
「お、Thanks。ついでに、クリス、歌えば?」
歌えば? ――と匠海が言うのは、元々が歌曲のこの曲には、歌詞が存在するから。
「え……。それは、遠慮しておく……」
良い声をしているのに恥ずかしがったクリスに、匠海とヴィヴィは声を上げて笑い。
10分ほど、各々譜面を確認していく。
カミーユ・サン=サーンスが、アンリ=カザリスの詩『死の舞踏』に霊感を得て、1873年にピアノ伴奏付き歌曲『死の舞踏』として作曲したこの曲は、翌年に交響詩として改作された。
元となった詩『死の舞踏』の主要素である “ヴァイオリンで舞曲を弾く死神” と “骨を鳴らして踊る骸骨(がいこつ)” を余すところなく音楽として伝えるため、当時誰も用いていなかった以下の2つの要素が、曲の中でふんだんに取り入れている。
1.“死神のヴァイオリン” の独奏(変則調弦の独奏ヴァイオリン)
2.木琴による “骨の当たる音” の表現(西洋管弦楽初の木琴使用)
まず、1つめ――
ヴァイオリンの弦は4本あり、太い→G線→D線→A線→E線→細い。
通常 開放弦(指で押さえていない状態)でG、D、A、Eと調弦するところを、“死神のヴァイオリン” では、G、D、A、E♭と調弦する。
演奏の冒頭、隣のA線と(変則調弦した)E♭線の開放弦を同時に弾き、「クレイジー」な不協和音を出す為に。
そして、2つめ――
この曲が作曲された当時、「おもちゃ」扱いだった木琴を、西洋管弦楽作品で初めて「楽器」として用いた。
木琴(シロフォン)の演奏するパターンは、独奏ヴァイオリンが舞曲旋律を奏でた後に、同じ旋律を繰り返すもの。
つまり “死神のヴァイオリン” の音に合わせ、骸骨が骨をかちゃかちゃ鳴らしながら踊る――という、まさに原詩の意味合いそのままを、実にリアルかつユーモラスに表現している。