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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 しっとりとクリスの頬に掌を添えるヴィヴィ。

 けれどクリスの顔には、まさに “ドS王子” さながらの、恐ろしい嗤いが浮かんでおり。

 驚愕の表情を浮かべたヴィヴィが腕の中から逃げて行くのを、クリスが悔しそうな表情で追い駆ける。

 何度も練習したツイヅル(回転しながら移動)も何とか合わせ、双子はリンクの端と端に移動し、試合では行わない片手ビールマンスピンをそれぞれ披露する。

 クリスが高いバレエジャンプで観客を魅了する中、預けていた骸骨を受け取ったヴィヴィは、楽しそうに等身大のそれと踊り始める。

 しかしそれも長続きせず。

 気付いたクリスが文字通り大股で駆け寄り、その手から骸骨を取り上げてリンクに放る。

 名残惜しそうに骸骨を見やるヴィヴィの、その細い両手首を後ろから掴んだクリス。

 右腕から左腕へと、むしゃむしゃ妹の肉を食べていく振り付けは――2011年シーズン、ロード姉弟のSP『アダムス・ファミリー』へのオマージュ。

 それを覚えているコアなファンから、わっと歓声が上がる。

 タキシードの胸から何かを取り出したクリスが、後ろからヴィヴィの肩にそれを貼り付け。

 蜘蛛の巣が張り巡らされた肩に、大きな蜘蛛(のぬいぐるみ)が乗っていることに驚いた妹は、兄を突き飛ばす。
 
 激しくなっていく円舞曲。

 後ろから腰を掴んだクリスに踊らされ、そのまま2人揃って180度開脚したアラベスクスパイラルへと移れば、「ほう」と熱いため息が鼓膜を響かせた。

 シンバルと管弦楽が続々と盛り上がり、急に訪れた静寂の中、オーボエが奏でるのは、朝を告げる雄鶏の鳴き声。

 “死神のヴァイオリン” が、夜の終わりを嘆き朗々と謳い上げる中。

 こちらも初の試みのデス・スパイラル(女性の手を掴んだ男性が中心となり、女性をその周りで回す)を、苦心して回りきる。

 最後の和音が悲しく鳴り響く、リンク中央――。

 片膝を付いたクリスの太ももに、腰を乗せたヴィヴィは、頭と脚をぐったりと下へと反らせ。
 
 まるで事切れた骸の様なヴィヴィを、クリスが抱き締めたところで、スポットライトは絞られた。

 
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