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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第28章
「もう一度、強い日本を! NHK杯」
ヴィヴィは笑顔ではきはきとそう言うと、胸の前で握り拳を作る。
「……は~い。ヴィクトリアちゃん、五秒バージョン、OKで~す!」
日本代表の白いチームウエアを羽織ったヴィヴィは、ほっと息を吐き出す。とたんに周りががやがやと騒がしくなる。ヴィヴィはそばに控えていた牧野マネージャーに視線を移すと、牧野は真顔でぐっと親指を立ててよこした。
双子は松濤のホームリンクで、1ヶ月後に控えるグランプリシリーズ・NHK杯のCM撮りをしていた。白いボードの前に立って一言言うだけなのだが、やはり緊張する。
「はい。次~、クリス君の男子三選手の15秒バージョン行きます~」
ヴィヴィの次にボードの前に立ったクリスは、まじめな表情でカメラを見つめる。
「5秒前……4、3、2……」
「オールジャパンで、戦います」
力強い声でそう言い切ったクリスにも一発OKが出た。
「では、篠宮兄妹はオールアップです。お疲れ様でした~!」
「「ありがとうございました」」
双子はハモって関係者に挨拶すると、それぞれアップのために撮影場所として使われていたミーティングルームを後にする。双子にとってのグランプリシリーズ第二戦目のNHK杯はもう二週間後に控えていた。一分一秒でも惜しく、念入りにけれど最短時間でストレッチを済ますと、氷の上に乗る。
『全日本選手権出場は必須
(1)GPファイナルの日本勢上位3人
(2)全日本選手権3位以内
(3)全日本選手権終了時の世界ランキングの日本勢上位3人
――のいずれかを満たす選手を対象に、総合的に判断する。
過去に世界選手権6位以内の実績を持つ選手がケガなどにより基準を満たさなくても、選考に加えられる場合がある』
翌日、学校帰りでリンクへと向かう車の中で、ヴィヴィは掌の中のi-Padをじいと見つめていた。そこに表示されているのはスケ連から発表された、オリンピック派遣選手の選考基準。
「男女とも枠は3つ、かあ……」
各国とも国で3枠というのが上限なのだ。その枠を前年の世界選手権で見事勝ち取ってくれたシニアの先輩方には、頭が上がらない。感謝するばかり。
けれど、だからと言って3枠しかない派遣選手の枠を、その選手達に渡すわけにもいかないのだ――厳しい世界だと思う。