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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 縦長のパイプは、上はゴールドで、底はアラビアンブルーの綺麗なガラスのフラスコ。

 フラスコ部分には水が満たされており、吸う度にブクブクと泡立つ音がした。

 そして口内いっぱいに広がる、ミントの清涼感溢れるフレーバー。

「どう?」

「す~す~する。レモンの香り、もする……」

 口の中だけでなく、鼻の中、咽喉、肺もミントですっきりして気持ち良く、凹んでいた気分がましになった気がした。

 □←の状態には、戻っていないけれど。

「フラスコの水に、レモンを絞ってあるらしいよ」

 数回吸って匠海に渡せば、ビーチベッドの肘置きに頬杖を着いた兄は、それをふかした。

(間接チュー……しちゃった。てへっ)

 一瞬そう思ったヴィヴィは、目の前の匠海の気だるげな様子に、濡れた頭をこてと倒す。

「 “ア・エ・イ・オ・ウのうた” 歌ってる、イモムシみたい……」

 『不思議の国のアリス』に出てくる、そのキャラクターが吸っていた水パイプを思い出し。

 兄からパイプを受け取り、もう一度吸い込んで煙を吐こうとしたが、水蒸気だからあまり白くならなかった。

「元気、でたか?」

 面白そうにぷかぷか水タバコを蒸かすヴィヴィに、匠海は微笑みと共にそう尋ねてくるが、

「うん! 出ないっ!」

 きっぱりそう言い切ったヴィヴィに、匠海は「ははっ」と声を上げて笑った。

「お兄ちゃん、ヴィヴィに、元気になって欲しいの?」

 細い腰を捻って兄の方に向き直ったヴィヴィは、じいとその大きな瞳で匠海を見つめる。

「ふ。当り前だろう?」

「じゃあ、唯一、ヴィヴィが元気になる方法、あるよ?」

 その勿体ぶった言い方に、匠海が形の良い眉を微かに上げて尋ねてくる。

「なんだい?」

 ヴィヴィは兄に視線を残したまま、指先だけでプールの方向を指し示す。

「一緒に、浮き輪でぷかぷか、するの」

 ここのウォーターパーク「アクアベンチャー」には流れるプールがある。

 皆が浮き輪に乗ってどんぶらこと気持ち良さそうに運ばれていくのを、ヴィヴィは羨ましく思っていたのだ。

(お兄ちゃんと、乗れたらいいなって……)

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