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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
(手……、繋いでるだけ、なのに……。なんでこんなに、ドキドキして、泣きたくなっちゃうんだろう……)
手を繋いだのは、いつ振りだろう――そうどうでもいい事を、頭の中で考え始めた頃。
「ヴィクトリア……?」
名前を呼ばれ振り仰いだ匠海と、ばっちり視線が合ってしまった。
「…………っ あ、はは……。て、照れちゃうね……?」
20cm差からじいと自分を見下ろしてくる兄に、ヴィヴィは微かに首を傾げる。
「…………? お兄、ちゃん?」
「いや……。可愛いな、と思って……」
兄のその指摘に、ヴィヴィは手繋ぎだけでドキドキしていた自分に焦る。
「え……? あ、やだ……っ」
(手……、汗かいてたかな? 泣きそうになってたの、気付かれちゃった?)
「ふ……。 “ヴィクトリア” は、本当に純粋で、愛らしくて……。大好きだよ」
そう言って微笑んでくれた匠海に、ヴィヴィの胸が更に高鳴った。
「……――っ ヴィヴィ、も……っ」
「大好き」と続けようとしたヴィヴィよりも早く、匠海がぼそりと呟く。
「あ~~……。キスしたい」
繋いでいない方の手を伸ばして、黒い布地の上から唇の輪郭を撫でてくる兄。
「えっ!? だ、駄目だよ……っ」
確かに今、ヴィヴィは誰が誰だか判らない状態だが。
万が一 親族に見られでもして、兄妹だと見抜かれてしまったら――。
「ふ……。分かってる」
妹の杞憂など百も承知 とそう苦笑した匠海は、ポーンと軽い音を立てて到着を知らせるエレベーターに、壁に凭れていた背を離し。
扉がゆっくりと開いていく中、ヴィヴィの耳元に寄せた唇で、面白そうに囁いた。
「お前をこのまま押し倒して “俺の” で突き上げたいのを、必死こいて我慢してる」
そんな卑猥な言葉と共に感じた、ふわりと漂う兄だけの香り。
「……~~っ」
絶句したヴィヴィの手を引いて、匠海は何事もなかったようにロビーへと出ると、すたすたと水族館の方へと歩んで行く。