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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 控えていたバトラーに紅茶を入れて貰ったヴィヴィは、オープンテラスに出されたサマーベットで一息付き。

 プールに降りたら誰かしら親族がいるだろうから、一緒にランチを採るか、と部屋を後にしようとした時。

 握り締めていたスマホが振動した。

「ん?」

 細い指先でロックを解除したその瞳に映し出されたのは、1通のメール。

『 イルカに遊んで貰えたかな?

  今、536号室にいるんだけど。
  
  誰にも見つからない様に、

  アバヤ着て来れるか? 』

「え……?」

 咄嗟に唇から洩れた声は、不思議そうなそれ。

 差出人を確認すれば、匠海からのメールで間違いない。

(536号室……? って、だれか従兄弟、泊まってたっけ?)

 何せ、今日の時点で親族が24名も、このホテルに滞在しており。

 そして日々出入りも激しいので、誰がどこの部屋に滞在しているか、把握していなかった。

(でも何で “誰にも見つからない様に、アバヤ着て” なの……?)

 違和感を覚えて、首を傾げるヴィヴィだったが。

「……あ……っ」

(もしかして……。え……、でも、まさか……)

 昨日の兄の様子を思い出し、そこから導き出した答えに、自分自身まだ半信半疑だけれど。

 ヴィヴィはメールに返信するよりも早く、ウォークイン・クローゼットへと駆けて行き、黒いアバヤを頭から被る。

 そしてリビングに置いてあったホテルの施設案内図を確認し、536号室の位置を頭に叩き込んで、スイートを後にした。

 小走りで廊下を突き進み、今日に限って中々上がって来ないエレベーターに飛び乗る。
 
 到着した5階フロアで部屋番号を確認すると、速足で歩き始めた。

 姿を隠してくれるアバヤは、こういう急ぐ時には困り物。

 ヴィヴィの細長い脚に踝丈の裾が纏わりつき、うっかり転びそうになる。

 目的の部屋の前に到着したヴィヴィは、廊下に誰も居ないと分かっていながらも、きょろきょろと辺りを伺ってから、軽く扉をノックした。

 10秒もしない内に中から開けられた扉の先には、当たり前だが匠海が立っていて。

「……あ……、えっと……、その……」

 あまり意味を持たない言葉を羅列する妹は、アバヤ越しに腕を掴まれた匠海に、部屋の中へと導かれた。

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