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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

「おにぃ……ちゃん……?」

 戸惑い気味のヴィヴィがそう名前を呼べば、返されたのは直接耳に吹き込まれた、愛の言葉。

「本当に、本当に……、愛しているよ。俺のヴィクトリア……っ」

 駄々っ子みたいに、端正な顔をくしゃりと歪める匠海が、心底愛おしくて。

「……~~っ」

 ヴィヴィの胸が、じくりと切なく歪み。

 その切なさを少しでも埋めようと、目の前の匠海の頭を両腕で抱き寄せる。

「…………っ ヴィクトリア……っ」

「……おにぃ……っ ちゃ……っ」

(なんて、可愛いの……っ この男は――)

 黒髪に頬を寄せながら、広い兄の背中と頭を必死に撫でて回る。

 けれどヴィヴィの腕では、届かない場所もあって。

 それが一層、切なく胸を締め付ける。

 こんなに立派な大人なのに――。

 ヴィヴィ以外の事に関しては、いつも冷静で思慮深い人間なのに。

 自分の前では本当に、我が儘で、駄々っ子で。

 少し弱い――自分の恋人。
 
 愛おしくて愛おしくて、しょうがないの。

 頼りない自分の薄い躰に縋り付いて、逞しい躰を小刻みに震わす貴方が――。

 もっと、甘えて。

 ヴィヴィに、甘えて――。

 愛されるだけじゃなく、自分も兄を必死に愛したいから。

「……愛して、る……。私の、おにいちゃん……」

 自分の心を舌に乗せて見せれば、匠海の抱き締めてくる力が更に強くなった。

 自分の中心――疼くそこを、兄の熱い昂ぶりで突き上げられて。

 身も世も無く喘ぎ乱れて、自分を縛り付ける全ての事柄を、何もかも放棄したくなる。

 貴方だけを永遠に感じられていられたら――。

 匠海だけに溺れて、互いに好きなだけ貪り合う。

 きっとそれは、途轍もなく甘い果実で。

 口に含むだけで目も眩むような甘露な時が、待ち受けている筈。

 けれど、今の自分は知っているから。

 兄が自分に望んでいるのは、それだけでは無い事を。

 そして、自分が望んでいるのも、それだけでは無い事を。

(だから、ヴィヴィ、いっぱい頑張るから。

 ずっと……、ずっと一緒に、居ようね――?)
 
 その気持ちを口にしようとしたヴィヴィだったが、はたと我に返る。

 今、この状態の匠海にその言葉を言ったら、離してくれなくなるんじゃないか――? と。

(うふふ。後でメールしよう~♡)

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