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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
8月16日(月) ドバイ滞在5日目。
今日も4時起きでリンクへと向かった双子は、黙々と自主練を熟した後、各々のSPとFPの通しを撮り合いっこし。
5時間を有意義に使い、ドバイでの練習最終日を締め括った。
5日間、毎日練習に来ていた真面目な双子は、ドバイ・モールで働くスタッフの間では、ちょっとした有名人になってしまっていて。
一応、世界ランキング1位同志の双子。
その技術・表現力に魅せられたスタッフ達は、自分の店の開店準備もそこそこに、プログラムを滑りきった双子に、ヤンヤやんやと拍手をくれたのだった。
モールのど真ん中に位置し、誰でも観る事の出来るリンク。
1階~3階までちらほら居るスタッフ達に対し、双子はにこやかに手を振り、礼をして氷から降りた。
ストレッチルームへ移動したヴィヴィは、念入りにクールダウンをしていたのだが。
すぐ傍にマットを敷いたにも関わらず、スマホを見て座り込んでいるクリスに気付く。
「…………クリス?」
画面に視線を落としたまま身じろぎしない双子の兄が、何だか異様で。
ヴィヴィの呼び掛けに、クリスはゆっくりと振り返った。
「どうしたの?」
「……フラれ、た……」
クリスのその言葉に、ヴィヴィは一瞬不思議そうな表情を浮かべ。
しかしそれはすぐに、慌てたものに取って代わる。
「……は……? ……って、か、 “花梨ちゃん” ……?」
「ん……」
小さく頷いたクリスを見詰めながら、ヴィヴィは微かな眩暈を覚えた。
“花梨ちゃん”
クリスの4人目の彼女。
御茶ノ水女子大学の2年生で、オーストラリアからの帰国子女――らしい。
そう、 “らしい”。
ヴィヴィはまだ一度も、 “花梨ちゃん” と対面していなかった。
クリスは一度も、彼女を屋敷にもリンクにも、もちろん大学にも連れて来なかったから。
そして、どうしてもその小さな頭の中に過ってしまうのは、双子の兄の 彼女との交際履歴。
16歳の1月~3月の間、クリスは3人の女子と交際していた。
1人目 : リサ 1週間
2人目 : ヘレン 2週間
3人目 : ローラ 3週間、
そして、初の日本人の彼女 “花梨ちゃん” とは、7月1日に付き合い始めたので、
(い……、1ヶ月半……かぁ……)