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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 8月頭に「4週間以上、付き合ってるね!」と喜んだのが、つい昨日の事の様に思い起こされる。

「ク、クリス……。元気、だして? えっと……、ほら! 明後日には帰国するし……。あ、でも、着くの深夜か……。う~~ん……。あ、そうだっ 翌日にでも会いに行けば?」

 しどろもどろも甚だしく、何とかクリスを元気付けようとするヴィヴィ。

(だって、こんなの。哀し過ぎる……っ)

 ヴィヴィの薄い胸は、まるで自分の事の様に張り裂けそうだった。

 2人が付き合っていた1ヵ月半。

 クリスは本当に多忙だったのだ。

 15日間の学期末試験。

 3会場9公演のアイスショー。

 2泊3日の強化選手合宿。 

 TV出演にメディアへの対応。

 毎日4時間半睡眠で、リンクやバレエスクールにも通い。
 
 そして、この7泊8日の家族旅行。

 正直、ヴィヴィだって、恋人であり兄でもある匠海に、寂しい思いをさせてしまい。

 昨日それが爆発してしまった次第で――。

(花梨ちゃんはきっと、クリスがどれだけ ここの所忙しかったか、解ってないんだよ……)

 元々 無表情で無口で無愛想と見られがちのクリス。

 もちろん分かっていて好きになったであろう彼女も、会えない寂しさから別れを口にしてしまっただけなのではないだろうか。

 ヴィヴィは壁に掛けられた時計を見上げる。

 今ドバイは10:20という事は、日本は同日の15:20。

「クリス……。電話してみれば? きっと声聞けば、花梨ちゃんも――」

 電話を促すヴィヴィを、双子の兄は小さくかぶりを振って止めた。

「……もう、いい……」

「え……?」

(もう、いい……て?)

 あまりにもあっさりし過ぎて見えるクリスの様子に、ヴィヴィは少々驚いて彼を見返す。

 骨ばった細長い指でスマホを包み込んだクリスは、静かな声で続けた。

「……好きになれれば……と思って、付き合ったけど……」

「……好き、に、なれなかった……?」

 思わずそう続けてしまったヴィヴィに、クリスは視線を寄越す事無く「ん……」と頷いた。

「………………」

 軽く開いていた唇を閉じたヴィヴィは、灰色の瞳をぐるりと四方へ彷徨わせる。

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