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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

 途方に暮れた。
 
 前の彼女3人も、彼女達から告白して交際が始まっていた筈。

 果たしてクリスは、彼女達の事を本当に好きになっていたのだろうか。

 少なくとも、3人目のローラとは性交渉を持っていた。

 苦しくも、ヴィヴィはその事後を、この目で確認してしまった。
 
 そして、気に掛かる事がもう一点。

(好きになれれば……って。クリス、どうしてそう思うんだろう……?)

 確かにフィギュア選手は、「恋をしなさい」と助言を受ける事が多い。

 特に、外国人のコーチや振付師に。

 日本のコーチは真面目な人が多いので、未成年の選手が交際する事を、是としない傾向にあるが。

 人を愛する事で感じる幸せ・苦悩・恍惚・葛藤――そういった感情や身をもった体験が、情感豊かな演技に繋がるから。

 現にヴィヴィも、実兄への恋心に気付き苦悩した14歳から、演技構成点が飛躍的に伸びた。

(こういう “別れ” も、スケートの為って……? もし本当にそうだとしたら、クリスはそれで、大丈夫なの……?)

 ヴィヴィはクリスではないから、解らないけれど。

 もし自分の心と身体を削って、スケートへ繋げようとしているのなら、今すぐ止めて欲しいと思う。

 そんな事を繰り返していたら、クリスの純粋な心は疲弊して、きっと壊れてしまう。

 物思いに耽っていたヴィヴィを、クリスの声が呼び戻す。

「ヴィヴィ……」

「ん……?」

 瞳を目の前にいるクリスに合わせると、双子の兄はヴィヴィを真っ直ぐに見つめながら続ける。

「慰めて……?」

 その声音が少し甘えた響きを含んでおり、ヴィヴィは自分の失態に気付いた。

「え……、あ、うん……。ヴィヴィに、何か出来ること、ある?」

(ヴィヴィ、クリスの為なら、何だってしたい……。大好きなクリスには、絶対に幸せになって欲しいから)

「デート……」

「え? デート?」

 そうオウム返しにした妹の手首を、クリスは軽く握ってきた。

「うん……。このまま、デート、しよう……?」

「え、そんなことで、いいの?」

(気分転換、したいのかな?)

「うん……」

 こくりと頷いたクリスが何だか可愛らしくて、ヴィヴィはふわりと安堵したように微笑む。

「分かった。ヴィヴィと、ドバイデート、しようっ!!」


 

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