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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第28章
その発言に、一気に会場がざわつき不穏な空気が流れ始めた。隣のロシア選手が母国の記者の失礼な質問に、嫌悪感を露わにテーブルの下で拳を握り締めるのが目に入った。
「………………」
ヴィヴィは大きく深呼吸すると、心の中で反芻する。
(Presence of mind――平常心……)
きゅっと桃色の薄い唇を引き締めると口を開く。
「おっしゃる通り……私には英国の血が3/4入っています。自分はそれを誇りに思っているし、生まれてからずっと住んでいる日本にも誇りを持っています」
ヴィヴィはそこで言葉を区切ると、辺りを見回して再度口を開いた。
「日本と英国には多くの共通点があります。今回のSPは日本の『詫び寂び』をテーマにしていますが、質素で簡素――この一見ネガティブなものの中に『美しさ』を見出す日本の文化は、古き良き歴史や骨董を愛でる英国の文化と類似しています。実に高度で贅沢な文化を持った両国の血を引き継ぐ自分を、このSPを通じて私はさらに誇りに感じています」
そう言ってにっこりと微笑んで見せたヴィヴィに、一瞬しんと静まり返った記者団から拍手が起こった。
「こ、これにてISU公式記者会見は終了いたします」
事の成り行きを見守っていたらしい司会者が焦ったようにそう言って会を打ち切ると、ヴィヴィはほっとして席を立った。
会見会場を出たところに、クリスと牧野マネージャーがヴィヴィを待っていた。大きく両腕を開いたクリスの胸に倒れこむように飛び込んだヴィヴィを、牧野が「お疲れ」と慰めてくれた。
「大丈夫……?」
「大丈夫……でも……」
クリスの腕の中で小さくそう呟いたヴィヴィだったが、その先は口にすることはなかった。しかしさすが双子。その時、同時に同じことを心の中で呟いていた。
((あ~~~……めんどくさ……))
翌日、FPを滑っているヴィヴィは「こんにゃろ! 絶対優勝してやるっ!」とあまり誉められるべきではない毒を心の中で吐きながら、今までの最高の出来でFPを終えた。