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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
全体的に音域が高く、華奢なイメージのあるその曲。
ストラヴィンスキー作曲、『5本の指でー8つのとても易しい小品』より、No.5 Moderato。
曲名通り、ピアノを始めて間もない人間でも、簡単に譜面通りに弾く事の出来る、易しいそれ。
ただ、その曲の持つ陰影を表現出来るかどうかは、また別問題だが。
たった1分の短い曲。
双子はアイコンタクトを取りながら、何度も何度も繰り返す。
最初はゆっくり。
徐々に早く。
「ピアノ(小さく)……」
小さな声で勿体ぶって囁くヴィヴィに、クリスはリンク外では滅多にない、楽しげな笑い声を上げた。
実はこの曲――双子がFPに用いる映画『シャネル&ストラヴィンスキー』で、使用されている楽曲だった。
まだ不倫関係に至っていないシャネルとストラヴィンスキーが、彼の手解きでこの曲を連弾する。
映画では、ヴィヴィ → ストラヴィンスキー、クリス → シャネルで、男女逆だが。
先程からその映画の一コマの、ストラヴィンスキーのセリフをなぞってくる妹に、クリスは声を上げて笑ったのだ。
双子の可愛らしい連弾を、シェフとウェイターは、微笑みながら見守ってくれていた。
一通り弾いて満足した双子は、互いに瓜二つの顔を寄せて、クスクスと笑い合う。
付け加えて言うと。
映画本編ではこのシーンの後から、シャネルとストラヴィンスキーは、不倫関係へと堕ちて行く――。
クリスが椅子から立ち上がり、次いでヴィヴィも立ち上がろうとしたのだが。
何故かその両肩を上から押さえられ、ヴィヴィは不思議そうに背後のクリスを仰ぎ見る。
「ギャラリーが、集まっちゃったみたい……。ヴィヴィ、あれ、弾いてよ……」
クリスの言葉に視線を元に戻せば、2人しかいなかった筈の聴衆は、何故か15名程に増えていた。
彼らの瞳は、「これからなんか面白い曲、弾いてくれるんでしょ?」的な、期待感に満ち溢れていた。
Stravinsky:Eight Very Easy Pieces on Five Notes 5.Moderato
https://www.youtube.com/watch?v=W7JZLyEOrDM