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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章           

「え゛……。あ、あれ、ですか……?」

 困った様に眉尻を下げる妹に、クリスは両肩をポンポンと叩きながら「あれ、ですよ……」と再度促す。

(まあ、確かに……。受けるだろうけれど……)

 散々練習してきたので、5月に皆の前で披露させられた時よりは、その演奏はましになった筈だ。

 金色の頭をぐるりと回し余計な肩の力を抜くと、ヴィヴィはシェフに向かって口を開く。

「えっと……、ストラヴィンスキー作曲、『バレエ組曲「ペトルーシュカ」からの3つの楽章』第1楽章 “ロシアの踊り” です……」

 これが最も聴衆受けしそうだと、クリスは選んだのだろうが。

 正直なところ、ヴィヴィは第2楽章 “ペトルーシュカの部屋” の方が好きだ。

 ピアノの為に改稿された3楽章中で一番、バレエ『ペトルーシュカ』のグロテスクな世界観が顕著に盛り込まれており。

 かつ、最も輝いた瞬間を併せ持つ――そんな複雑で美しい楽章だから。

 ふっと薄い唇から息を吐き出したヴィヴィは、両手を20cmの高さから、鍵盤という白黒の世界へと叩き付けた。

 肉眼では追い掛けられない程の速度で、和音をはじき出す少女の姿に、広いフロアの空気が一変する。

 あれが、先ほどまでオママゴトの様な連弾をしていた少女、と同じ人間なのか? と。

 幾度も積み重ねていく和音で、ヴィヴィの細い身体が椅子から浮きそうな程に上下する。

 爪を立てて2本の指でグリッサンド(鍵盤を撫でて滑らせる奏法)を挟めば、曲は更に華やかさを増していく。

 初見でもすぐに覚えてしまえる、

 ♪シドレ~ミレドシ、ラッラッシ~、シドレミレ~ドシ、ラッラッシ~♪

 という主題を幾通りもの変奏で繰り返すこの曲は、やはり万人受けする様で。

 視界の隅に入る聴衆の色取りどりの頭が、一緒にリズムを刻んで、小刻みに上下しているのが見て取れた。

 そうなるとサービス精神旺盛なヴィヴィも、調子に乗り始めて。

 いつもより大げさに身体を揺らして表現し、聴かせる場所ではうっとりとした表情で弾き込んだ。

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