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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「うん……。そんなところも、ひっくるめて可愛い……」
クリスのその言い様に、ヴィヴィは「はは……。ありがと……」と、若干引き気味で礼を言う。
(やっぱりクリス、単純なヴィヴィには「可愛い」って言っとけばいい、と思ってるんだから……っ)
タコのように唇を尖らせて拗ねるヴィヴィだったが、それでもすぐに、その小さな顔には微笑みが宿る。
「ふふ……っ 楽しかったね、連弾」
映画を初めて観た時、「いつかクリスと一緒に、この連弾をしてみたいな」と思っていた。
それが、まさかこのドバイの地で現実になるとは。
そしてクリスは、素敵な笑顔を見せてくれた。
「うん……。とっても楽しかった……。また、しよう……?」
脚を止めてそう言ってくれたクリスに、ヴィヴィは満面の笑みで「うんっ」と頷いたのだった。
「あ……、そろそろ、日が沈んでいくね……」
ヴィヴィの視線の先、180度に広がる水平線に、オレンジ色の大きな太陽が触れ合う寸前だった。
ペルシア湾に沈む夕日。
そんな物を目にする機会が来るなんて、ヴィヴィは想像だにし無かった。
もしかしたら一生、目にする事も無かったかも知れない、素晴らしい絶景。
それを観る機会を与えてくれたのは、隣に立っている双子の兄。
クリスが18歳の誕生日に「家族旅行がしたい」と言ってくれなかったら、こんな機会は中々持て無かったのではないだろうか。
「クリス?」
「ん……?」
水平線を見つめたままそう相槌を返してくる双子の兄を、ヴィヴィは下から見上げて唇を開く。
「ありがとう。クリスのおかげだよ」
「え……? 僕、何かした……?」
全く心当たりが無いといった様子で、目をぱちぱちしながら見降ろしてきたクリスに、ヴィヴィはにっこりする。
「ふふ……。クリスのおかげで、家族水入らずの時間が沢山持てたし。中々来れないだろう中東まで、こうやって旅行に来られた。本当にありがとう!」
正直、今のクリスは傷心で、もしかしたらそれどころじゃ無いのかも知れないが。
でもヴィヴィはとても嬉しかったし、楽しかったしので、今この場でお礼の言葉を口にしたかった。