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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「ヴィヴィちゃん、クリス君。メイクルームへお願いしま~す」
ADに呼ばれて席を立った双子は、それぞれプロのメイクさんに、整えて貰い。
その最中、ヴィヴィは誰にも見られないよう、細く長い吐息を吐いた。
(ヴィヴィは、臆病だ……)
どうしても思考が、昨日のカレンとの会話に立ち戻ってしまう。
万が一、カレンがクリスに玉砕してしまったら。
ヴィヴィは、大好きな2人がそれぞれ傷付き、互いを思って苦しむ姿を見るのが怖い。
(いや違うか……。臆病なんじゃなくて、狡いんだ……)
カレンがクリスに告白し、うまく行かなかった場合。
アレックスを含めた4人の関係が、崩れて壊れてしまうのでは無いかとも、恐れている。
要するに、自分が一番可愛いのだ。
「……はぁ……」
無意識に吐き出してしまった溜息に、ヘアセットをしてくれているオカマっぽいメイクさんが、ヴィヴィを鏡越しに覗き込んでいた。
「ふふ、恋の悩み……かしらね。青春って感じねぇ? いやぁん、お姉さん、羨ましいわぁ~~♡」
そう勝手に盛り上がってくれるメイクさんに、ヴィヴィは「ははは……」と笑って誤魔化したのだった。
8月21日(土)。
テレビ収録の翌日から、ヴィヴィは母の振付の仕事を手伝い始めた。
きっかけは、ヴィヴィが発した言葉だった。
『ヴィヴィ、マムの役に立てること、ある……?』
娘のその言葉を聞いた時、ジュリアンは物凄く驚いて――驚き過ぎて、しばし絶句してヴィヴィを見ていた。
父への親孝行は開始している――いまいち、役に立ててるのか、よく分からないけれど。
次は母の番。
ジュリアンの反応は、驚きと困惑と嬉しさとを、ない交ぜにした様なものだった。
『それでなくても忙しいし、五輪プレシーズンなのに……。そんな事、考えなくていいわよ』
何度言ってもそんな返事しか返してくれない母に、ヴィヴィは何度も食い下がった。
その結果、しぶしぶ母が発したのが、
『じゃあ、そうねえ……。生徒の振り付け、一緒にしてみる?』