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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
沢山の花束とプレゼントを抱え、こちらへと戻って来るクリス。
笑顔で出迎えるジュリアンの傍ら、ヴィヴィは何故か大きな瞳で双子の兄を睨んでいた。
コーチとハグを交わし、妹へも両腕を伸ばしたクリスは、そこで初めてヴィヴィの様子に気付き。
「…………? どうしたの、そんな可愛い顔して……?」
4分半滑りきった人間とは思えないその飄々とした様子に、ヴィヴィはすぐ傍にテレビカメラがあるにも関わらず、喚いた。
「絶対に負けないんだからっ!!!」
「……は……?」
意味不明な宣戦布告に間抜けな声を上げたクリスへ、がばっと抱き着いたヴィヴィ。
その双子の可愛らしいやり取りを、このFPの振付師・パスカール=カメレンゴが、にやにやしながら見守っていたのだった。
結果は――言う間でも無く、クリスはぶっちぎりの1位。
翌、日曜日の女子FPでも首位に立ったヴィヴィも、グランプリシリーズ初戦を1位で飾ったのだった。
10月最後の日曜日。
防音室にはきゃっきゃと、楽しそうな声が響いていた。
「 “プルチネラ(イタリア組曲)” は? あれ、ヴィヴィの可憐な音色にぴったりだと思うけど?」
ヴァイオリンとピアノの為に書き下ろされた、6曲の小品を挙げる白砂に、ヴィヴィは明るい声で続く。
「あ、好きっ “パストラーレ” なんか、どうです?」
ヴィヴィは手元にある “ストラヴィンスキー作曲の曲名リスト” に視線を落とす。
すべての曲が、ヴァイオリンとピアノのための曲。
「いいねえ。ヴィヴィはピアノとヴァイオリン、どっちがやりたい?」
「ん~~、どっちも!」
「どっちもかい! 欲張りな子だね、ヴィヴィは」
そう笑い飛ばす白砂に、ヴィヴィは「だって、どちらも素敵なんですもん」と言い募る。
朝比奈が淹れてくれた紅茶に口付けた師弟は、これからヴィヴィがレッスンを受けていく曲目を決めていく。
ヴァイオリンと、ピアノ。
その両方を教えてくれることになった白砂に、
「今シーズンは、ストラヴィンスキーにどっぷり嵌りたいんですぅっ」
と懇願したヴィヴィ。
そのあまりの必死さに苦笑した講師は「SPもFPも、ストラヴィンスキーだしね?」と了承してくれた。