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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章          

「俺の顔に、何か付いているのかな?」

 ジノリのティーカップをテーブルに戻した白砂に、

「う~~~ん」

 両腕を胸の前で組んだヴィヴィは、目の前に座る白砂の顔をじいと見つめていた。

「ん?」

 黒縁眼鏡の下にある唇が、少し色っぽく歪む。

「ん~と……。先生、誰かに似てらっしゃるんですけど……、こ、この辺まで出掛ってるのに、名前が思い出せない」

 悔しそうに咽喉元を指で指し示すヴィヴィ。

「あ~……。よく「似てる」って言われるのは、ふふ……。あの、冬ソナの?」

「あっ! そう、そうです!! えっと、ペ様っ ペ様ですっ」

 白砂の誘導に、ヴィヴィは両掌を合わせながら、そう連呼する。

「ははっ 普通は “ヨン様” って言うけどねえ」

「うん、目元とか醸し出す雰囲気とか、すっごく似てます!」

 似ている人が分かってすっきりした表情を浮かべるヴィヴィに、白砂は面白がってスマホに入っている「今までで一番、ヨン様に似てた写真」を披露してくれた。

「髪長くて、後ろでしばってる時、よく街で間違えられたよ」

「あははっ なんか、うっとりした目がイっちゃってる!」

 見せられた写真の白砂は、ヴァイオリンの演奏中で。

 少し上向き加減で瞳を細めている様が、かの韓国俳優にそっくりだった。

 胸の前で両手を揃え、上向き加減でうっとりしてみせる白砂に、ヴィヴィは腹を抱えて笑った。

「えっと、白砂先生」

 話を元に戻そうとするヴィヴィに、

「あ、今(こん)でいいよ」

 そう促す白砂。

「え? あ、はい。じゃあ、今先生」

「はい、何ですか?」

 にっこり微笑まれたヴィヴィは、ずっと思っていたことを口にする。

「ふふ。 “今(こん)” って素敵な名前ですよね」

「母がつけてくれたんだ。おかげで初対面の人にも、絶対に下の名前だけは覚えて貰えるよ」

 嬉しそうにそう答えた白砂は、紅茶を飲み干し、

「じゃあ、そろそろ真面目に、レッスンしますか~」

 と切り替え、席を立ったのだった。






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