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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
手鏡で自分の顔を見たヴィヴィは、
「……赤、すぎません……?」
「そう? いい感じだと思うけど。おてもやん、みたいで」
何故、母が熊本ゆかりの人物を知っているのか不明だが、ヴィヴィは「……ですか」と納得しておいた。
ちなみに、クリスも頬に同じことをやられている――男子なのに。
何故こんなメイクをするかというと――、
双子は、バレエ『ペトルーシュカ』の衣装をトレースして、SPの衣装を作ったから。
ヴィヴィが今 纏っている衣装は、
朱色のコルセットベスト、半透明の白地に金のボーダーが入ったインナー。
ピンクから水色へのグラデーションが施された、薄いスカート。
そして、ヴィヴィのお気に入りの部分。
ベストの背中側は、朱色・水色・白色の、レジメンタルストライプ(英国の連隊旗の配色をもった縞柄。ネクタイに用いられる)で、スカートに隠れるパンツ部分も、同じストライプになっている。
(コルセットベストから剥き出しの胸が、かなり貧相、なんですけどね……)
唯一残念なのはそんなところか。
バレエに倣い、金色の髪は両サイドにボリュームを持たせた編み込みにし、藁人形である証しの赤いほっぺ。
「可愛い……」
自身のSPを終えたばかりのクリスが、ヴィヴィの傍でそう呟く。
(おてもやん、が……?)
係員に呼ばれ、3人とスケ連のスタッフは、リンクサイドへと移動する。
リンク内では、ロシアのエリザベータ・トクタミシェルの名が、コールされているところだった。
ひとつ息を吐いたヴィヴィは、目蓋を閉じてイメージする。
ここは19世紀前半のロシアの街――。
華やかなバレエの舞台には似つかわしくない、どこか生活臭のする群衆による、無秩序などんちゃん騒ぎを繰り広げる市場。
こうした混沌のるつぼの中に、 “ペトルーシュカの悲劇” がぽんと投げ込まれる。
これがバレエの核心部分であり、ヴィヴィのSPにも響いてくる。
実のところ――、
ヴィヴィが用いている曲 “ロシアの踊り” は、魔術師に操られ、観衆の面前で踊りを披露するだけのものだし。
演じている “バレリーナ” も、ただの愛らしい藁人形。
ペトルーシュカ(クリス)の様に、藁人形なのに人間の心を持つ事も無く、苦悩する姿も無い。