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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
上着を脱いだヴィヴィは、前の選手の得点が読み上げられる中、ファーストジャンプのアクセルの踏み切りを確認する。
常と同じ様に、リンクサイドでコーチとクリスの激励(?)を受け。
自分の名がコールされるリンクへと、滑り出した。
『多くの日の丸が掲げられています、超満員の会場。時間をたっぷり使って、落ち着いて……。心は、整ったようです』
リンク中央、両腕を肩の高さでホールドし、うな垂れたポーズを取るヴィヴィ。
「6分間練習でもアクセルは決まっていました。不安要素は無い筈――思い切って行ってほしいですね」
荒河の声が途切れた頃。
広大なリンクに響くのは、魔術師の奏でる3つの笛の音。
1つは、ムーア人に。
1つは、バレリーナに。
1つは、ペトルーシュカに。
2番目の音でだらんと下げていた頭を、ぴょんと跳ね起こしたヴィヴィ。
真ん丸に見開かれた瞳は、まるで今しがた永い眠りから覚めた様に、辺りをぎょろりと見渡す。
響き渡る第一主題に操られ、ヴィヴィは胸の前でホールドした両腕はそのままに、その場で小刻みな足踏みとジャンプを繰り返す。
8小節、その場でたどたどしく踊ったヴィヴィは、細かい音符を連ねて盛り上がっていくオーケストラに乗せ、滑り始め。
助走の為に大きく氷を蹴る長い両脚。
その上半身は、不自然な程真っ直ぐ伸びた両腕と、その先で上へと跳ね上がった手首。
ぽんと蹴り上げた左脚は、助走に乗る右脚と直線を描き。
そして踏み切ったのは、いまやヴィヴィの代名詞である、3回転アクセル。
大きな拍手に包まれて着氷したヴィヴィは、両腕を頭上へと掲げ。
真っ赤に染めた頬には不釣り合いな、澄ました笑みを浮かべる。
オーボエが奏でる、シャープで生命感溢れるリズムに乗せ、深いエッジで踏まれていくステップシークエンス。
ロッカーから、美しいアラベスク・スパイラルを挟んでからの、3連続の左回転ディフィカルトターン。
左回転のツイズルは、胸の前で両腕をホールドし、まるでバレエのフュッテを彷彿とさせる旋回。