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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
一瞬の静寂ののち、地響きにも似た歓声と拍手が辺りに充ち。
ひょっこり顔を上げたヴィヴィは、照れ笑いを浮かべながら、冷たい氷から身体を起こした。
(ん~~。まあまあ、かな……?)
そんな能天気な事を頭の中で思うヴィヴィは、満足気に にっこりし。
興奮した様子の観客席に向かって、藁人形の如き ぎくしゃくした礼を送ったのであった。
グランプリシリーズ2戦を首位で終えた双子は、12月頭に行われるグランプリ・ファイナルへ向け、さらに己を磨き。
大学の授業、習い事にもコツコツ取り組んでいた。
11月14日(日)。
夕刻に来て貰った白砂に、ピアノのレッスンを受けていたヴィヴィ。
前の講師から習っていた、ストラヴィンスキー作曲の『ペトルーシュカからの第三楽章』はクリアしたので、次の曲に取り掛かったのだが。
ストラヴィンスキー作曲『ピアノ・ラグ・ミュージック』。
数あるピアノ曲の中から、自分で選んだくせに、ヴィヴィは大層苦戦していた。
「待って。右手と左手、拍子がバラバラ。もう一回ここから」
白砂に遮られ、指示された小節から弾き直すヴィヴィだったが。
「違う。一回、口で歌ってごらん? さん、ハイっ」
そう命じられ、慌てて譜面に釘付けになる。
「え……と……。タータタ タータタ タタタタータ タータタ タタッタッタ?」
「違います。タータタ ターラタ タタタターラ タータタ タタッタッタ!」
一刀両断して歌ってみせる白砂に習い、ヴィヴィはもう一度歌い上げる。
が、途中で訳が解らなくなり、金色の頭を両手で抱え込んでしまった。
「う~~ん。 “裏拍の強調” は上手なのに、シンコペーションが苦手なんだね?」
両腕を胸の前で組みながら、首を捻る白砂に、
「えっと……。“裏拍の強調” が得意なのは、ダッドがちっちゃい頃から、JAZZをやらせてきたから……です」
篠宮家の “JAZZ英才教育” は、確実にヴィヴィの身になっているらしかった。