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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
「ほほう。それは素敵なお父様で。前回説明した、 “ラグタイム” 覚えている?」
「はい。アメリカで流行ったジャンル、ですよね?」
ラグタイムとは、シンコペーションを多用した右手のメロディーと、マーチに起因する左手の伴奏を癒合させた、独特の演奏スタイル。(Wikipediaより)
右手と左手のズレ(ラグ)のリズムを愉しむもの。
「そう。1897年~1918年に流行し、ストラヴィンスキーはその翌年に、この曲を作曲しているんだよ」
白砂の説明に、ヴィヴィはこくこく頷く。
「ラグタイムの演奏の基礎が解っていないと、いつまで経ってもこの曲は弾き熟せないね。ほら、もう一回楽譜を読み込んでから、弾いてごらん?」
ヴィヴィは言われた通り譜面を手に取り、灰色の瞳で必死に楽譜を追うのだが。
実際に弾いてみると、シンコペーションが上手く刻めない。
「…………とほほ」
譜面に顔を突っ伏すヴィヴィに、白砂はグランドピアノのボディーを軽く叩きながら、右手の楽譜を歌って聞かせてくれていた。
むっくり頭を起こしたヴィヴィは、漆黒のピアノを叩くその手が気になり。
まじまじ見つめた末に、薄い唇を開く。
「今先生、背も高いもん……」
「……は……?」
「いきなり何を言い出すんだ!?」という表情で、黒縁眼鏡越しにこちらを見てくる白砂に、
「いやぁ~……。背が高い人は、手も大きいのかなって」
しみじみそう呟くヴィヴィに、隣に立っていた講師の顔が引きつる。
「………………、ヴィヴィ、俺が歌ってたの……、ちゃんと聞いてた?」
「……っ!? あ、聴いてましたっ うんっ 本当に!」
大げさにぶんぶん首肯するヴィヴィに、
「絶対、聞いてなかった……。まったく……。しょうがない、ちょっと休憩しようか~」
そう続けた白砂は、防音室にあるソファーセットの方へと歩いて行く。
「す、すみません……」
謝りながら控えている朝比奈に視線を向けたヴィヴィに、執事は心得た様子で茶器を用意し始める。
「うちのお兄ちゃん、188cmもあるんです。で、手が大きくて」
謝っておきながら、まったく反省の色がないヴィヴィは、そう言いながらソファーに腰を下ろす。
「ふうん?」