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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
11月19日(金)~21日(日)の3日間。
東大では駒場祭が行われた。
5月に行われる本郷キャンパスの五月祭は、3~4年生が主体のもの。
そして、駒場キャンパスで行われる駒場祭は、そこで学ぶ1~2年生が主体のもの。
双子の在籍するクラスは30名皆仲が良く、クラスでの参加を決め。
皆がスペイン語を履修していることから、仕込みも簡単で材料も手軽な、スペイン名物・チュロス(星形の絞り口で絞り出した棒状の揚げ菓子)の店を出店した。
なにせ、材料は 薄力粉・塩・バター・オリーブオイル・グラニュー糖という、安価なものばかり。
売れに売れたチュロスは、原価を大きく上回る利益が出て、皆はウホウホで打ち上げをしたのだった。
その翌週、11月28日(日)。
次の週末にグランプリ・ファイナルを控えたヴィヴィは、早朝からリンクでのリハを熟し。
夕方から篠宮家の防音室で、レッスンを受けていた。
ヴァイオリンで課題を弾いてみせるヴィヴィを、ピアノで伴奏していた白砂は、冒頭ですぐに止めてしまった。
「ん~……。足りない」
「え? な、何が足りないんですか?」
たった数小節で見極められて動揺したヴィヴィが、焦って振り向く。
「もちろん、色気!」
「……はぁ……、色気、ですか……?」
当たり前の事のように主張してくる白砂に、ヴィヴィは左肩に挟んでいたヴァイオリンを下ろし、首を傾げる。
「そう。『プルチネラ』はイタリアのガチ・モテ男、なんだよ? どんな女も魅了してしまう “色気” を滲ませないとね?」
「ははぁ……。イントロ(Introduzione)からですか?」
(こんなに “バロック調” なのに、い、色気……?)
内心戸惑いながらも、ヴィヴィは「色気、エロティシズム、セクシー……」と頭の中で呟きながら、再度ヴァイオリンと弓を構える。
17世紀~18世紀に流行した “バロック(古典)音楽”――バッハやモーツアルトに代表されるそれ。
それを模し、ストラヴィンスキーが1920年に完成させたのが、今練習している『プルチネラ(イタリア組曲)』。