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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
あんな小難しく複雑な曲ばかりを創っていた、ストラヴィンスキーからは想像も付かない、一種 爽やかさをも感じる作品。
ストラヴィンスキーには “カメレオン” というあだ名がある。
時代によって下記の通り、作風を変え続けていった為だ。
原始主義 : ペトルーシュカ、春の祭典、火の鳥
↓
新古典主義 : プルチネラ
↓
セリー主義
SP『ペトルーシュカ』や、クリスのFP(に用いている)『春の祭典』と同じ作曲家が創ったとは思えない、バレエ音楽『プルチネラ』のあらすじは――。
主人公のプルチネルラは、白いマスクに白い衣装の色男。
街中の女性にモテモテで、町の青年2人が恋している女性2人も、彼に首ったけ。
嫉妬した青年2人は、プルチネルラの殺害を決意する。
しかし死んだ振りをしたプルチネルラは、自分とそっくりな友人と入れ替わり、魔術師として登場。
おまじないをすると、プルチネルラに扮した友人が生き返り、プルチネルラも魔術師から自分の姿に戻り。
はたまた街中の男が、プルチネルラに扮して大騒ぎ。
結局、皆が扮装を解き、それぞれのカップルで仲直りのハッピーエンド。
――なんか、分かったような分からないような、バレエだ。
「……駄目。もう一回、頭から」
調子よく奏でていたところに、白砂のその静止。
「はいぃ~~……」
眉をハの字にしたヴィヴィは、再度ヴァイオリンに弓を乗せたが。
「そうだなあ~。具体的に誰かを想像して弾いてみれば? 女性にモテモテの色男、周りにいない?」
「あ~……。なるほど」
講師の助言に、ヴィヴィはそう呟いて昨年の事を思い出す。
エキシビで『TAKE FIVE』を選んだヴィヴィは、 “男も女も悩殺できるような娚(おとこ)” をテーマにし、男装したのだが。
その際、身近にいた匠海を観察しまくり、演技に生かした。
(そっか。お兄ちゃんのこと、想像しながら弾けばいいのか……♡)
白砂から見えないところで、にんまりしたヴィヴィだったが、
「ほら、 “ここ” にもいるでしょ? モテ男が」
冗談ぽくそう寄越してくる白砂に、ヴィヴィは「ぶふっ」と吹き出す。
「今(こん)先生、モテ男だったんですか?」