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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第108章
けれど――、
「講師――女性の先生、に変更しないか?」
そう発した匠海の表情は、先程までの幸せそうなものから打って変わり、どこか思い詰めた様なそれで。
「……へ……? なんで?」
「なんで……て。……心配、なんだ」
匠海のその曖昧な説明に、ヴィヴィは「あ~……」と苦笑しながら続ける。
「確かに今先生は、言う事ちょっと過激? に映るかもしれないけど。本人は全然、至って普通の人だよ?」
白砂は口が達者で、少し悪ぶってみせる癖があるだけ。
今日見せて貰った “現地妻” だって、音楽関係の友人の娘さんってだけだったし。
「それでも何でも。……あんなイケメンに、ヴィクトリアが習うなんて、気に食わない」
そう吐き捨てた匠海は憮然としていて、何だか可愛くて。
ああ、また見当違いなやきもちを焼いてくれているんだ――とヴィヴィは悟る。
「イケメン……? ヴィヴィにとっては、お兄ちゃん以外の男の人は、外見なんて何の興味も無いのに……」
「そんな訳、あるか。それにお前、物凄く白砂先生に懐いてるじゃないか……」
兄のその言葉に、ヴィヴィは金色の頭をこてと傾ける。
「え、そうかな? まあ、お兄ちゃんと同い年だから……かな?」
(真行寺さんも、マドカっていう年の離れた妹がいるからか、お兄ちゃんと雰囲気が似てて、話しやすいし)
しかし、次に続いた兄の言葉に、ヴィヴィは心底驚いた。
「やっぱり駄目だ。俺が新しいヴァイオリン講師、探してやる」
「……え……。ちょ、ちょっと、待って……?」
話の展開に付いて行けず、ヴィヴィは黒革のソファーに乗せていた両脚を下ろし、匠海に向き直る。
「女性同士の方が、互いに分かり合えることや、勉強になることも多いだろう。契約は俺が解約しておくから。お前は何も心配するな」
すらすらとそう口にする匠海は、今この場で考えた事を言っているのでは無いのであろう。
今日でまだ4回目のレッスン。
ヴァイオリンもピアノも課題曲を相談して決め、レッスンを開始したばかりというのに。
それより何より。
生徒であるヴィヴィが、講師である白砂に何も不満も感じていないのに。